約 1,012,678 件
https://w.atwiki.jp/touhoukeitai/pages/654.html
No.220 / まかいの 人形 ちびルイズ 基本データ 説明 いとめが チャームポイントのかんこうが すきな ようじょ。 タイプ ノーマル 特性 めんえき タマゴグループ ひとがたりくじょう 種族値 HP 攻撃 防御 特攻 特防 素早さ 合計 55 40 40 40 55 30 260 獲得努力値 HP 攻撃 防御 特攻 特防 素早さ 0 0 0 0 1 0 分布 場所 階層 Lv 備考 かえらずのあな 15~18 その他の入手方法 なし 進化系統 ちびルイズ ┗Lv20でルイズ ┗Lv38でEルイズ 育成例 レベルアップ技 Lv 技名 001 はたく 007 まるくなる 011 たまなげ 015 かげぶんしん 019 うたう 023 アンコール 027 バリアー 031 たたきつける 035 ピヨピヨパンチ 039 おだてる 043 ミラーコート 047 じたばた 技・秘伝マシン技 No 技マシン名 06 どくどく 07 あられ 09 めいそう 10 よめしゅぎょう 11 にほんばれ 12 ちょうはつ 15 LUNATIC 16 ひかりのかべ 17 まもる 20 しんぴのまもり 27 おんがえし 32 かげぶんしん 33 リフレクタ- 37 すなあらし 39 がんせきふうじ 42 からげんき 44 ねむる 45 あさのひざし 49 よこどり No 秘伝マシン名 なし タマゴ技 技名 くすぐる あまいかおり しろいきり マッドボム キノコのほうし てだすけ 人から教えてもらえる技 場所 技名 未実装
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1760.html
ラ・ロシェール付近の森の中、うっそうとした木々の生い茂る一角で、アニエスから渡された甲冑をルイズが装着していた。 アニエスが、ルイズの隣でぽかーんと口を開けて、呆けたように何かを見上げている。 その様子がおかしかったので、ルイズはクスリと笑みをこぼした。 「そんなに驚くことないじゃない」 アニエスは今まで見上げていたモノから目を離し、ルイズに顔を向ける。 「あ…。 いや、でも、これは、驚くさ」 冷や汗を垂らしながらアニエスが呟くと、アニエスの見上げていた吸血竜が、べろんとアニエスの頬を舐めた。 「 !! 」 「大丈夫よ、食べようなんて思ってないわ。お友達への挨拶よ」 「そ、それならいいんだが、心臓に悪い」 アニエスが見上げていたのは、十匹以上の竜を食べ、巨大化した吸血竜の姿だった。 『結局、一晩眠っちまったなあ。開戦になっても目を覚まさなかったらどうしようか、ヒヤヒヤしたぜ』 「居眠りして戦争に遅れました、なんて格好悪いまねしないわよ」 デルフリンガーの言うとおり、ルイズは精神的な疲労のため丸一日近く眠っていた。 昨日、大規模な『イリュージョン』を使ったせいで、ルイズの精神力が限界を迎えていたのだ。 タルブ村を覆うように『森』の幻影を造り、森の中には『タルブ村と草原』の幻影を作る。 これによって、アルビオンの軍勢に一時的な混乱を招き、タルブ村の住民が避難するまでの時間稼ぎをしたのだ。 「アニエス、アルビオン艦隊はラ・ロシェールに近づいきてる?」 「ああ、少しずつだがこちらに接近しているようだ。地上部隊の行進に合わせて移動しているのだろう」 「厄介ね。あの大砲はトリステインの所有するものより性能がいいそうよ。射程距離だって1.2倍…いや、1.4倍は見積もらないと危険ね」 「そこまで高性能な大砲だとは思いたくないな。仮に1.4倍の射程距離があるとすれば、あと一時間でラ・ロシェールが射程距離に入る」 「その前にあいつらを混乱させるわよ」 ルイズが全身を包み込む甲冑を着込み終わると、デルフリンガーを鞘から抜き放ち、その鞘をアニエスに渡した。 「これは?」 「甲冑を着けてると鞘を背負えないのよ、預かってて」 「わかった」 鞘を受け取ったアニエスが、ルイズに敬礼する。 ルイズは目礼でそれに応じてから、吸血竜に飛び乗った。 今のルイズは、ニューカッスルの城から巨馬に乗って脱出したという、銀色の甲冑に身を包んだ騎士の姿そのもの。 「あ、そうだ。ねえアニエス、その……ヴァリエール家は参戦していないの?」 アニエスはすかさず答える。 「ゲルマニアは援軍を二週間後によこすと言ってきたそうだ。遅すぎると思わないか?」 それを聞いて、ルイズはなるほどと頷いた。 「ゲルマニアが裏切る可能性があるから、国境警備を兼ねてるヴァリエール家はここに来られないって訳ね」 「そうらしいな」 「…よかった」 「?」 「何でもないわ、じゃ、早速行ってくるわね」 ルイズは、吸血竜の背から伸びた骨を掴む。 吸血竜はそれを合図にして、力強く翼をはためかせた。 「…頼む」 アニエスは飛び立った吸血竜を見上げながら、まるで祈るように呟いた。 『なあ、嬢ちゃん』 「なに?」 『ヴァリエール家っておめえの生まれた所だろ』 「そうだけど、急に何の話よ」 『おめえ、自分が生きてるってバレるのが怖いだけじゃねえ、何か別の物も怖がってねえか?』 「…わかる?」 『少しは』 「そうねえ……例えばね。『レキシントン』と同じぐらいの戦力を持ったメイジがいるとしたら、どう思う?」 『そりゃ驚きだ、何だ、もしかしてヴァリエール家にはそんな実力を持った騎士団が居るのかい』 「騎士団じゃないわ、個人よ」 『へっ?』 「ある一人のメイジがこの戦場にいれば、戦況は大きくトリステイン側に傾いてたことでしょうね」 ルイズはどこか楽しそうに、そして懐かしそうに笑った。 「なに、竜が?」 『レキシントン』の後甲板で、トリステイン侵攻軍総司令官であるサー・ジョンストンが伝令からの報告を受けていた。 「はっ、未確認の竜が一騎、ラ・ロシェール付近の森から飛び立ち、レキシントンへとまっすぐ向かっております」 ジョンストンはふむ、と自分の顎を撫でた。 「トリステインの竜か、一騎で来るとは妙な奴だ。もしや我等の仲間か、はたまた亡命目的か……まあよい、落としてしまえ」 「既に小隊長命令で竜騎兵が向かっております」 「ふむ、我が部隊は実に優秀だ」 ジョンストンは満足そうに笑みを浮かべた。 「伝令!」 だが、別の伝令が血相を変えて後甲板に足を踏み入れたのを見て、ジョンストンと艦長のボーウッドは顔をしかめた。 「わ、我が軍の竜騎兵二十騎中、五騎が未確認の竜に落とされました!」 「何だと!」 ボーウッドが血相を変えて叫ぶ、アルビオンの竜騎兵は天下無双と唄われるほど訓練されており、航空戦力の要でもあった。 一騎の竜に五騎も落とされるなど、絶対にあってはならないのだ。 「竜は七枚の翼と、異常に長く伸びた尾を使って竜騎兵を絡め取っております!成体に満たぬ風竜のような大きさですが、鱗や角や翼など、誰も見たことのない異様な姿をしており……」 ジョンストンは頭に被った帽子を握りしめ、伝令に向けて叫んだ。 「ワルドはどうした! 竜騎士隊を預けたワルドは! あのトリステイン人はおののいて逃げたか!」 「子爵殿の風竜は、姿が見えぬとか……」 「裏切りおったな! ええい、何としてもその竜を落とせ! ワルドは見つけ次第処刑してもかまわ…」 顔を真っ赤にして怒るジョンストンの前に、ボーウッドがすっと手を出した。 「兵の前で取り乱しては、士気にかかわりますぞ」 ジョンストンは、ボーウッドにもバカにされているのかと思いこみ、怒りの矛先をボーウッドに向けた。 「何を! 貴様の稚拙な指揮が貴重な竜騎士隊に損害を与えたのだぞ!」 叫ぶようにわめきながら、ボーウッドの胸ぐらを掴もうとジョンストンが手を伸ばす。 ボーウッドは杖を握りしめてこぶしを造り、でジョンストンの腹を殴った。 うっ、とうめき声を上げ、ジョンストンは倒れた。 白目をむいたジョンストンを、傍らで待機していた従兵が乱暴に抱きかかえ、艦長室へと放り込む。 ジョンストンは総司令官という立場を与えられてはいるが、戦争の経験に乏しかった。 軍人としての優秀さで今の立場を掴んだボーウッドとは対照的で、落ち着きに欠けているのだ。 ボーウッドは将兵に向かって、落ち着き払った声で言った。 「本艦『レキシントン』号を筆頭に、艦隊は未だ無傷。そしてワルド子爵には何か策があるのだろう。諸君らは安心して、勤務に励むがよい」 将兵達の表情に少しの安堵が戻る。 何も問題はない、何も心配はないと思わせるような威厳こそが、ボーウッドが長年積み重ねてきた研鑽の成果なのだ。 「艦隊全速前進。左砲戦準備」 ボーウッドは艦隊に指令を下す、このまま進めば、ラ・ロシェールに陣を敷くトリステイン軍を射程に入れるまで五分もかからない。 ラ・ロシェールは周りを岩山で囲まれた天然の要塞だ。 だが、制空権を奪ったアルビオン艦隊にとって、トリステイン軍はアリ地獄の底に押し込められたアリのようなものに見えた。 しばらくすると、トリステイン軍の陣容がはっきりと見えて来る、ボーウッドはそれを確認し、指示を飛ばした。。 「艦隊微速。面舵」 レキシントンをはじめとするアルビオン艦隊が、トリステイン軍を左下に眺めるかたちで回頭する。 「上方、下方、右砲戦準備。弾種散弾を込めよ。左砲戦開始。以後は別命あるまで射撃を続けよ」 空高くから、重力の助けを借りて弾丸が飛ぶ。 一発一発の威力は凄まじく、風のスクエアでも対処に苦労するその勢いに、ボーウッドは勝利を確信していた。 だが、まだ何かイレギュラーがあるかもしれないと考えていると、そこに伝令が駆け込んできた。 「竜騎兵、全滅!」 それとは別の伝令も、後甲板へ報告を伝える。 「地上部隊、ニューカッスル城から脱出したと思われる『騎士』と交戦中!」 ボーウッドは眉をひそめた。 ニューカッスル城から脱出した『騎士』と『鉄仮面』。 旧アルビオン王家にとってはまさしく『英雄』であろう。 たった一人の英雄が戦局を変えられるなどとは思っていない、だが、そこに付き従う兵がいたとすれば、それが大きなうねりとなって戦局を覆す恐れがある。 油断はできないからこそ、彼は躊躇いなくどのような作戦をも指示できるのだ。 「”例の船”を準備をしておけ」 ボーウッドの呟きを聞いた一人の従兵が、敬礼をした。 閃光が走る。 アルビオン艦隊からの艦砲射撃がトリステイン軍を襲った。 雨のように降り注ぐ砲弾が、ラ・ロシェールごとトリステイン軍を破壊するような勢いで襲いかかってくる。 「所定の位置につけ!後退しつつ砲弾を反らす!」 ウェールズがアンリエッタの前に立ち、魔法衛士隊をはじめとするメイジ達へと檄を飛ばす。 いくつもの弾が、大地を抉り、岩も人も馬もすべてを吹き飛ばし、舞い上げた。 爆音がトリステイン軍を包んでいるが、トリステイン軍は壊滅的な打撃を受けることなく、砲弾を逸らすことに成功していた。 マザリーニは近くの将軍たちと打ち合わせをしていたが、砲弾を防ぐウェールズの手腕に目を見張った。 トリステインは小国だが、始祖ブリミルから続く歴史と由緒のある国であった。 アルビオン、ゲルマニア、ガリアなどと比べれば国力は弱いと思われがちだが、戦力となるメイジの数は各国の中で最も多いぐらいなのだ。 ウェールズはこの短期間でトリステインの戦力を把握し、ラ・ロシェールの地形を考慮した上で最適の陣を考案した。 風の魔法で作られた空気の壁も、アルビオンの戦力をよく知るウェールズだからこそ効率よく配置できるのだ。 マザリーニは思わず、ううむ、とうなっていた。 しかし、何割かの砲弾は逸らしきれずに飛び込んでくる。 いくつかの砕けた岩と血が舞うのを見て マザリーニは呟いた。 「この砲撃が終わり次第、敵は一斉に突撃してくるでしょう」 それを聞いたウェールズがマザリーニに答えた。 「砲撃に勢いがない! こちらが後退戦を仕掛けているのを見抜かれている!」 続けて、アンリエッタもユニコーンの上に乗ったまま、周囲の轟音にかき消されぬようにと大声で言った。 「『石仮面』からの連絡がありしだい『ヘクサゴン・スペル』を使います!」 「御意に」 ドオン、と地震のような地響きが伝う。 敵は空からの絶大な支援を受けた三千、トリステインは、砲撃で崩壊しつつある二千。 マザリーニは、勝ち目がないこの戦をどう覆すのかと、『石仮面』に問いただしたい気持ちだった。 「すごいじゃないの! 天下無双と謳われたわれたアルビオンの竜騎士が、全滅よ!」 白銀の甲冑を着込んだルイズが、アルビオンの地上部隊のまっただ中で叫んだ。 吸血竜が竜騎兵の炎にも、魔法にもひるまずに戦っているのが見えたのだ。 二十騎もいた竜騎兵は、九枚の翼と大蛇のような躰を器用に動かして空を飛ぶ吸血馬に、跡形もなく食われ、吸収されていった。 戦場の雄叫びに包まれ、ルイズの声はデルフリンガーしか聞こえていない。 『五時の方向に指揮官が居るぞ!』 「見えてるわ!」 デルフリンガーはルイズの無駄口には答えず、淡々と敵の指揮官の位置を図っていた。 「オオオオオオオオオオオッ!!」 両手を開き、居並ぶ兵士に向けて猛烈なタックルをぶつける。 その一撃で30人ほどの兵士が浮き足立つ、ルイズはその隙間に入り込んで敵兵を盾にしつつ、指揮官へと接近する。 右手に持ったデルフリンガーで邪魔者を吹き飛ばし、指揮官へと指先を向けた。 甲冑の隙間から伸びた髪の毛が、腕を伝って、指先から勢いよく押し出される。 それはまるで吹き矢のように指揮官の躰へと突き刺さった。 髪の毛は指揮官の身体の中へと潜り込み、脳へと突き刺さる。 「これで20人!」 ルイズは地面にデルフリンガーを突き刺し、勢いよく跳ね上げた。 地面から跳ね上げられた土しぶきと石のつぶてが、勢いよく兵士達に突き刺さっていく。 弓矢と魔法を受けてボロボロになった鎧が、血に染まって赤くきらめいた。 「WRYYYYYYYYYYY!!」 ルイズが叫ぶ、空高くを飛ぶ竜に向けて、叫ぶ。 「GOAAAAAAAAAAA!!」 叫び声を受けた吸血竜が雄叫びを上げ、ルイズを迎えるため地上へと首を向けた。 羽を縮め、鷹が空気抵抗を殺して落下するのと同じように、勢いよく高度を下げる吸血竜。 地上すれすれで大きく翼を開くと、その異様さがどれほど際だっているのかよく解った。 「うああああああああああああああ!」 吸血竜に踏みつぶされ、誰かが叫ぶ。 ルイズはかまわず飛び乗ると、たてがみを握りしめた。 風竜よりも大きな翼をはためかせると、風圧で兵士達が何人も吹き飛ばされる。 長く伸びた尾を無造作に振り回しただけで、兵士達はまるで箒に掃かれる枯れ葉のように宙を舞った。 竜騎士隊を全滅させた吸血竜と、地上で戦っていたルイズは、草原の遙か上空に浮かぶ『レキシントン』へと向かった。 船の下には、ブルリンと再会するきっかけとなった、ラ・ロシェールの港町がある。 デルフリンガーが周囲を確認して呟く。 『嬢ちゃん、雑魚をいくらやっても、親玉をやっつけなきゃどうしょもねえ』 「わかってるわよ」 『策はあるのかい』 ルイズはデルフリンガーを左手に持ち直すと、自分の力を確かめるようにデルフリンガーを強く握りしめた。 右手を高く掲げ、腕の中に仕込んだ杖を少しだけ掌から露出させる。 「風石の効果を少しの間だけ止めるわ、少しでもあの戦艦を地上に近づける。そうすれば勝機はあるはずよ」 『死ぬ気かよ』 ルイズは、答えなかった。 ラ・ロシェールに向けて放たれる艦砲射撃は凄まじい。 見上げた先にある『レキシントン』からは、いくつもの砲門がトリステイン軍勢に向けられている。 その砲撃の中で、一つだけ違和感を感じる発光が見えた。 「!」 ルイズの躰が硬直したのを感じて、吸血竜は勢いよく身を180度翻した。 次の瞬間、吸血竜の躰に無数の鉛玉がぶち当たり、翼や尾の一部を砕いた。 「きゃあっ!?」 『散弾だ! 射線から離れろ!』 デルフリンガーが叫ぶと、吸血竜はうめき声を上げながら翼を翻した、それによって二撃目を避けることはできたが、吸血竜の躰には明らかなダメージが与えられていた。 『嬢ちゃんしっかりしろ!おい!』 「だ だいじょうぶよ!」 デルフリンガーはルイズの心の変化を敏感に感じ取れる。 ルイズの心には、戦争に対する恐怖があった。 吸血鬼となったルイズは、自分が死ぬことなど怖いと思えなくなっていた。 しかしアンリエッタや、ウェールズ達を思い出すと、ルイズの心に恐れが浮かんでくるのだ。 吸血鬼となった自分を、お友達だと言ってくれたアンリエッタ、ウェールズ。 彼らを勝利に導けるのは自分しかいない、いま自分が死んだら戦争に負け、二人は処刑されてしまうだろう。 それを考えると、ルイズの心にも恐怖が浮かぶ。 死にたくないという思いが、ルイズの心を『吸血鬼』から『年相応の少女』へと引き戻すのだ。 『嬢ちゃん、落ち着け!』 デルフリンガーの声が聞こえたのか、ルイズはハッと目を見開いた。 そして、震える躰を押さえようと、強く、強くデルフリンガーを握りしめる。 「わ、わたしは、わたしは、敵に後ろなんか見せられないのよ!」 体勢を立て直した吸血竜の上で、右手を高く、レキシントンへと向けた。 「敵に後ろを見せぬ者をっ… 貴 族 と 呼 ぶ の よ !」 相変わらずルイズの体は恐怖に震えている、だが、その心は信念に支えられ、力強く肉体を動かした。 『嬢ちゃん』 「デルフ! 最期までつきあって貰うわよ」 『俺は武器だぜ、最初からそのつもりよ。それよりなんとかして船の真上に行くんだ、そこに大砲を向けられねえ死角がある』 「死角…敵もバカじゃないわ、その死角をカバーする手を持ってるでしょうね。けど……」 ルイズは吸血竜のたてがみを右手で握りしめ、足を踏ん張った。 「行くわよ!死ぬ気で飛びなさい!」 「GURUOOOOOOOOO!!」 吸血竜がそれに呼応し、人間にはとても耐えられぬ勢いで体をくねらせ、翼を動かす。 雲に突入し、高く、ひたすら高く空へと昇っていくと、ルイズの視界が急ににじんだ。 仮面の中で流す涙を拭うこともできず、ルイズはそのまま杖を構え尚した。 「………」 ルイズは強靱な握力で吸血竜の背にしがみつきながら、ルーンを詠唱していた。 吸血竜が雲を突き破り、レキシントンよりも高く舞い上がったのを確認すると、ルイズは吸血竜が、レキシントンを見下ろした。 雲の中から飛び出たルイズは、眼下に広がる草原に杖を向け、『イリュージョン』を放った。 「おお!あれは……アルビオンの国旗ではないか!」 草原の上に描かれたのは、巨大な旧アルビオンの国旗だった。 それを合図にして、ゆっくりと後退していたトリステインの軍勢が敵の地上部隊へと進軍を開始した。 アルビオンの地上部隊では、混乱が起こっていた。 突如空中に現れた国旗に刺激されたのか、20人ほどの指揮官が地上部隊の司令官へと杖を向けたのだ。 「なんだ!?何が起こっている!」 地上部隊の司令官は、突然の反乱に困惑を隠せなかった。 『従順な』はずの部隊長達が、一斉にアルビオン軍に杖を向けたのだ。 それに従う者、逆らう者、かまわずトリステインへと突撃しようとする者が入りみだれ、アルビオン軍の地上部隊は戦列を崩し、烏合の衆になっていった。 ルイズが最初にアルビオンの地上部隊に切り込んだのは、忠誠心を呼び覚ます仕掛けのためだった。 ルイズの髪の毛は肉腫となって人間の脳に寄生し、ルイズへの忠誠心を植え付けることができる。 今回はそれを利用して、『旧アルビオンの国旗』への忠誠心を呼び覚ますトリガーを作ったのだ。 それは、アンドバリの指輪によって指揮官が操られている場合でも変わらない。 何よりも優先して『旧アルビオンの国旗』への忠誠心を呼び起こされた指揮官達は、レコン・キスタへ反旗を翻したのだ。 「『石仮面』からの合図だ!」 「ええ。行きましょう、ウェールズ様」 トリステインの陣では、突如空中に現れた国旗を見て、アンリエッタとウェールズを中心とする即席の部隊が移動を開始した。 「アンリエッタ」 「ウェールズ様」 ウェールズはユニコーンに近づき、ユニコーンに乗るアンリエッタを抱き上げた。 自身の乗るグリフォンへ乗せると、魔法衛士隊が円陣を造り二人を囲む。 そしてアンリエッタとウェールズは杖を掲げて、詠唱を開始した。 「…」 『嬢ちゃん!おい!嬢ちゃん!』 「! あ、デルフ、私、何秒気絶してた?」 『五秒ぐらいだ、それより後ろを見ろ、ワルドが来てるぜ!』 ルイズは頭を振って、今の状態を確認した。 レキシントンよりも高い位置で旋回していた吸血竜が、距離を取ろうと翼をはためかせているが、後ろから接近してくるワルドの風竜はそれよりも早い。 ワルドは風竜の上でルイズを睨んだ。 彼はこのときをずっと待っていたのだ、『レキシントン』号の上空の雲に隠れ、静かに時を待っていた。 アルビオンの竜騎兵を撃墜した謎の竜、ワルドの乗る風竜でまともにぶつかっても勝ち目は薄い。 勝つためには虚を突くしかない、そう考えて上空に隠れていたのだが、竜の背に乗る騎士の姿を見てワルドの心は怒りに震えた。 「石仮面…!」 仮面で顔は隠されているが、あのような戦い方ができる人間など他には居ない。 それどころかあの竜は、他の竜を食べて吸収し、大きくなっているのだ、それに気づいたワルドはニューカッスルの城で切断した腕を思い出していた。 義手がギシギシときしむ音が、まるで歯ぎしりのように耳に付く。 「そこにいるのは『石仮面』、貴様だろう…なぜ貴様はその顔をしているのだ……! 消えろ亡霊ーーーッ!」 ワルドは風竜の手綱を、強く握りしめた。 ルイズは焦った、ワルドが乗る風竜は、吸血竜よりも遙かに早い。 瞬く間に追いつかれたと思ったら、次の瞬間には『エア・スピアー』が吸血竜の体を抉ったのだ。 「まずい……レキシントンをなんとかしなきゃいけないのにっ」 ルイズの焦りを感じ取ったのか、吸血竜が心配そうに鳴き声を上げた。 「グルルルルル……」 『おい、俺に構うなって言ってるぜ』 「嘘じゃないでしょうね」 『こんな時に嘘を言うかよ!』 「ワルドは強敵よ!ニューカッスルで遍在をいくつも使われたでしょ、九人分のメイジが命を省みず特攻してくるのと同じよ!」 「グアアアアアアアアアアアアアアアッ!」 「きゃっ」 突如、ルイズの体に何かが巻き付いた、吸血竜が長く伸びた尾でルイズを掴んだのだ。 吸血竜は、レキシントンの後甲板に向けて、ルイズをぽいっと投げた。 『俺を信用しないのかって怒ってるみてーだ』 「ちょっ、うわっ…」 ルイズの体は宙を舞い、レキシントンの甲板へと落下する。 だが甲板では幾人かのメイジがルイズに向けて杖を向けていた。 「まずいっ、魔法で壁を作られたら…」 『俺をあいつらに向けて構えろ!』 「!」 ルイズはとっさにデルフに従い、空中でくるりと回転して体勢を立て直し、デルフリンガーを甲板に向けた。 そして、デルフリンガーの刀身が輝いた。 「っ!」 ルイズの体に衝撃が走る、空気で作られた壁にぶつかったのだが、その壁は霧散して消えてしまった。 他にも風の刃や、炎の固まりがルイズに向けて放たれたが、デルフリンガーがそれを吸収してしまう。 「馬鹿なッ!魔法が通じ…」 甲板でルイズに杖を向けていたメイジが、何かを言いかけたところで、ドオンと大きな音を立ててレキシントンに振動が走った。 「…あんた、意外とやるじゃない」 『へへっ、これが俺のホントの姿よ、魔法ならいくらでも俺が吸い取ってやるさ』 「頼もしいわね!」 ルイズは、折れたままの足で甲板を蹴り、に渾身の力を込めて、竜騎兵を搭載するほど丈夫な甲板を踏み抜いた。 「サー!『騎士』が甲板に降り立ちました!甲板の中から船内に侵入した模様です!」 「…馬鹿な!」 ボーウッドは珍しく語尾を強めた。 異形の竜といい、『騎士』といい、すべてが規格外だ。 「まさか、烈風カリンではあるまいな」 ボーウッドの背に冷や汗が流れるのを感じた。 「何としてでも殺せ!」 いつも冷静なボーウッドが声を荒げたので、幾人かの兵が身震いをした。 ボーウッドは敵の戦力を侮っていたと、今更ながら考えていた、ふとある事を思いついたが、恐怖を煽ってはならないと考えて、決して口には出さなかった。 (あの騎士は、まさかエルフではないだろうな…) To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1235.html
歩く。 ひたすら歩く。 馬で二日かかる距離をひたすら歩く。 夜も昼も朝も夕べも宵も、歩く。 トリスタニアの首都トリスティンを出発して四日目、港町ラ・ロシェールを眼前にして、彼女は太陽を見上げた。 太陽の角度から見て、時刻は正午を過ぎているだろう、だが最終便には間に合うはずだと考えて、彼女は歩みを再開した。 「ちょっとお腹空いたわ」 『あれだけ食っといてか…冗談じゃねえや』 革製ローブのフードを深く被り、一人で歩いているその女性は、誰かと喋っているようだった。 「何よ、人のこと大食いみたいに」 『四日のうちにオークを十匹も食う奴が何言ってやがる!だいたいテメェ人間じゃねえだろ』 「ヒトってのは、ニンゲンって意味じゃなくて、他人って意味よ」 『けっ!まあったく、厄介な奴だぜ』 「またその話?武器屋から厄介払いされちゃったのは、デルフ、あなたじゃない」 『うるせえ!だいたいなあ、俺はテメーみたいな…』 その女性は、背中に背負った大剣と会話しながら、あえて街道を避けて、森の中を歩いてきたのだ。 デルフと呼ばれた大剣は口が悪く、持ち主を罵倒し続けたが、孤独な持ち主にとっては罵倒すらも楽しかった。 『これから町に入ってよぉ、人前で「吸血鬼がいるぞー!」って叫んでやろうか!俺は別に破壊されたっていいんだぜ』 「ふーん、やってみれば? 鞘に入ったら何も出来ないくせに」 物騒なことを言われながらも、彼女はなぜか笑顔のままだった。 港町ラ・ロシェールは、白の国アルビオンへの玄関口と言われている。 アルビオンはトリスタニアより国土が小さく、しかも宙に浮いているとあって、徒歩では決してたどり着くことは出来ない。 アルビオンに行くためには、空を行く船に乗るか、ドラゴンを操って飛ばなければならないのだ。 『けっ、吸血鬼のくせに先住魔法も使えねーのか、まあ使われても困るけどよ』 「その吸血鬼っての止めてくれない? …ルイズって呼んでよ」 『ルイズ?』 「そう、呼び捨てで良いわ」 彼女…ルイズは、ラ・ロシェールにたどり着くと、街道に並ぶ商店、宿、酒場には目もくれず、船着き場へと歩いていった。 船着き場へ向かう長い階段を上ると、それなりに高さのある丘の上に出る、そこには目もくらむ程巨大な樹がある。 木の枝には豆粒のようなものがぶら下がっているようにも見えるが、近づけばそれが船だと分かるだろう、この樹は王宮か、それ以上の巨大さがあるのだ。 ルイズは、木の根本に空いた巨大な穴から中へと入っていく、樹の内部は空洞になっており、行き先を告げる看板と、その脇には枝へと続く階段が設置されていた。 その中からアルビオン行きを選び、階段を上ろうとしたところで、すれ違った船員風の男から呼び止められた。 「おい、あんた」 「…私?」 「アルビオン行きはもう輸送船しか残ってないよ」 「輸送船でも人一人ぐらい乗れるでしょう?」 輸送船と聞いても動じない女を見て、船員風の男は呆れたような顔をした。 「輸送船に乗るなんてのは傭兵か貧乏人だ、女が乗るのは止した方がいい」 「おあいにく様」 くすりと笑みを浮かべ、背中の長剣を指さす。 「腕に覚えがあるのかい?身ぐるみ剥がされて投げ捨てられないように気をつけなよ」 そう言い残して男は去っていった。 ルイズが桟橋に登っていくと、そこには一隻の船が枝からぶら下がっていた。 輸送船と言うだけあって、飾り物のたぐいは付けられていない、せいぜい船体が白く塗られている程度だ。 所々が色あせて地肌が露出しているのを見て、さすがのルイズも (途中で落ちるんじゃないでしょうね…) などと考えていた。 ルイズは船員に金を払い、輸送船へと乗り込む。 甲板の扉から船室に入ると、パイプの臭いが鼻についた。 どうやらこの船は輸送船を名乗ってはいるが、運ぶのは物資ではなく傭兵や荒くれ者らしい。 ルイズはフードの中で顔をしかめ、甲板へと戻ろうと後ろを振り向いた。 「こんにゃろ!」 と、突然胸のあたりを蹴られた。 蹴られたと言うよりは部屋の中に押し込もうとした感じだが、ルイズはそれを意に介せず、少し強めに前進した。 「わっ、わったったたっ!?」 ルイズを蹴ろうとした男は、情けない声を出して背中から倒れた、どこかで見たような気がするが、よく思い出せない。 「こ、この野郎、てめぇ一度ならず二度までも、やってくれるじゃねえか!」 「どこかで会ったっけ?」 男は上半身を起こして、ルイズに啖呵を切った、特徴的な髭面に見覚えがあったが、何処で会ったのかイマイチ思い出せない。 『武器屋で追い返したじゃねーか』 デルフリンガーに言われ思い出す。 「あ、あの足の上に箱を落としてフギャーとか叫んで逃げていった奴ね」 「フギャーは余計だ!このアマ、今度こそギャフンと言わせてやらぁ!」 男が両手を胸の前で組み、ポキポキと指を鳴らし、ルイズを威嚇する。 「あまり騒がれると困るのよ、後にしてくれない?」 ルイズはまったく怖がる様子もなく、平然としている。 その様子を船室から見ていた何人かの荒くれ者が、男に向かってヤジを飛ばした。 「おいブルリン、おまえ舐められてるぞ!」 「細身のいい女じゃねえか!顔見せてみろよ!」 そう言って、船室から出てきた一人の男がルイズのフードを引っ張った。 フードの中から出てきた顔は、どう見てもまだ幼さの残る少女のもの、男達は一瞬あっけにとられたが、すぐに腹を抱えて笑い出した。 「ハッハッハッハッハ!ブルリン、おまえこんなガキに舐められてんのか!」 「舐められるならアッチの方がいいな、ガハハハハ!」 笑い声に気づいた傭兵や、荒くれ者も船室から顔を出してくる。 困ったことに、今のルイズは注目の的だった。 「うるせーぞ!てめぇらからぶっ飛ばしてやろうか!」 困惑するルイズを余所に、ブルリンと呼ばれた男が怒鳴りだした。 「女に舐められて何言ってやがる」 「お?怒ったか?ブルリンちゃ~ん、ハハハハ!」 どうやら怒りの矛先が、他の傭兵や荒くれ者達に移ったようだ。 あれよあれよという間に喧嘩は始まり、甲板の上のみならず船室の中が戦場と化す。 もっとも、男の『意地』をかけた戦いは、貴族の決闘とも違う、どこか競い合うような雰囲気にも見えた。 ルイズは欠伸をすると、船尾の一角に腰を下ろし、そのまま眠ってしまった。 『お客さんだ』 「…?」 デルフリンガーが来客を告げ、その声でルイズは目を覚ました。 既に船は出航し、雲の合間から二つの月が輝いているのが見える。 ルイズの目の前に立っていたのは、先ほど喧嘩をおっぱじめたブルリンだった。 「なあに?」 「あ、いや、すまねえ、ちと見とれちまって…」 そう言うとブルリンはルイズの隣に腰を下ろした。 ルイズは興味なさそうに月を見上げていたが、隣に座ったブルリンが自分の横顔をじっと見つめていたので、仕方なくブルリンに向き直った。 意外なことに、ほとんど怪我らしい怪我はしていない、平民にしてはかなり強いのだろうか。 「喧嘩の続き?」 「い、いや、滅相もねえ、あんたの横顔があんまりにも綺麗でさ」 『やめとけやめとけ、こいつに近づくと怪我じゃ済まねえよ』 突然聞こえてきた声に驚き、ブルリンはあたりを見回した。 「だ、誰だ?」 髭面の大男が、驚いて周囲を見渡しているのが、どことなく可笑しい。 ルイズはくすくす笑いながら背中の剣を指さした。 「喋ってるのはこいつよ、意志ある剣、インテリジェンスソード、珍しいでしょう?」 ブルリンは心底珍しいと言った感じでデルフを見た。 「噂には聞いてたが、ホントにあるなんてなあ、な、あんたもしかして名のある傭兵さんかい?」 「これから名を売る予定よ」 「これから!?はぁ、こりゃ大胆なことを言うぜぇ。 傭兵って事は、アルビオンの内乱が目当てで…?」 「まあ、ね」 ルイズはトリスティンの酒場で聞いた話を思い出した。 アルビオンは現在、旧来の統治者たる『王党派』と、『貴族派』が内乱を繰り広げているらしい。 従軍経験はおろか、魔法の戦闘利用すらマトモに出来なかったルイズは、戦い方を知らない。 アルビオンでは貴族派と王党派が傭兵を欲している、そう聞いたルイズは、傭兵の実情を知るに良い機会だと考えてアルビオンにわたる決心をした。 「それで、どっちに付くんだい」 「それを聞いてどうするの?勧誘はお断りよ」 「い、いや、そうじゃねえんだ、俺もまだ決めかねてるのさ」 「あら、傭兵は賃金の良い方に付くと相場が決まってるんじゃないの」 「…そうじゃねえんだ」 ブルリンは、静かにアルビオンでの思い出を語り始めた。 彼はアルビオンで酒場のマスターに助けられるまでの記憶を失っていた。 ブルリンというのは本名ではなくて、以前つきあっていた女からそう呼ばれていたと話して以来、傭兵仲間の間ではブルリンと呼ばれるようになったらしい。 本当の名前は『ブルート』だと記憶しているが、その記憶すら本物かどうか分からず、自分が何者なのか分からなくて思い悩んだそうだ。 今回、アルビオンに行くのは、その酒場のマスターの手助けをしたいと思っての事だとか。 そのマスターが貴族派なのか王党派なのかを聞いてから、どちらに付くのかを決めるらしい。 『へー、見上げた傭兵もいたもんだな、なーなー俺を使わねーか?』 「デルフ…あんたいい加減にしないと全力で海に向かって投げるわよ」 『ちょっ、じょ、冗談だって!』 二人?のやりとりにブルリンが笑い出す。 「ガハハ!なんだ、その剣、デルフって言うのか、妙に人間くさいじゃねえか、ところで剣の名前を聞いたんだから、あんたの名前も教えてくれよ」 『こいつはル…』 デルフが「ルイズ」と言い切る前に、僅かに刀身を見せていたデルフを鞘に押し込んだ。「私の名は、『石仮面』よ、貴方と同じあだ名みたいなものよ」 「も、もしかして、それってメイジ様の二つ名って奴かい?」 「………」 「それなら、その細身にあれだけの腕力があっても頷けるなあ、やっぱり魔法で体を強くしたり出来るんでございましょうですかい?」 突然おかしな敬語をしゃべり出したブルリンに、ルイズはまた笑ってしまった。 「プッ、もう、慣れない言葉を使うもんじゃないわ」 「い、いや、貴族様だとは知らなかったもので、つい」 「私もね…過去がないのよ、メイジだなんて自覚も、もう無いわ」 「あ…すまねえ、俺が無神経だったよ、許してくれ」 ルイズは月を見上げた。 寄り添う二つの月が、ルイズの心に寂しさを去来させる。 あの日、自分の魔法で自分が火傷したあの日、キュルケは太陽のような輝きではなく、月のように優しく私を抱きしめてくれた。 タバサも、ギーシュも、モンモランシーも、あのマリコルヌも、私を心配してくれた。 寄り添う二つの月は、重なることはあっても接触することはない。 月は夜の闇を照らしてくれている、しかし、月が私たちに明かりをもたらしていると、月は知っているだろうか? 吸血鬼が側にいると知られれば、彼女らに迷惑がかかると思って、こうやって一人で旅しようと決めたことを、知っているだろうか。 「なあ…あんた、やっぱり綺麗だな」 ブルリンの言葉が、ルイズを現実に引き戻す。 「何よ、口説いてるつもり? …あんた汗くさいんだからあっちに行きなさいよ、私は眠いの」 「ひでぇなあ、俺、これでも清潔には気を遣ってるんだぜ?」 「十年遅い」 「ちぇっ」 ブルリンが船室に入っていく、すると、後甲板には風の音しか聞こえなくなる。 見張り台の船員は夜中でも周囲を警戒していた。 ルイズはフードを被りなおして、静かに…泣いた。 To Be Continued → 9< 目次
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3274.html
「サモンナイト」よりクラレット召喚 魔法使いと召喚師-1 魔法使いと召喚師-2 魔法使いと召喚師-3 魔法使いと召喚師-4
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2165.html
「テファ、こっちのお芋はいくつ剥けばいいの?」 「籠の中に入っている芋、全部よ」 「解ったわ」 ルイズ達がウエストウッド村に到着した翌日、ティファニア達の住む孤児院で、ルイズ達がティファニア達の仕事を手伝っていた。 朝、子供達とマチルダは野菜を収穫しに出かけ、ワルドは薪を集めると言って森に入っている。 ルイズはと言うと、孤児院の台所で野菜を刻んでいた。 つい先日まで勤めていた『魅惑の妖精亭』に比べると、かなり小さいが、そこにはティファニアとマチルダの思い出が詰まっていると聞いていた、石畳と釜戸はマチルダがテファに合わせて練金したものらしい。 魅惑の妖精亭で働いていたルイズは、台所が手狭に感じられたが、同時にその小ささに安心感を感じていた。 大きな台所といえば、魔法学院の厨房に一度だけ入ったことがある、吸血鬼になって間もない頃、包帯を貸してくれたシエスタの姿を見かけたので、声をかけに入ったのだ。 適当に挨拶を交わしただけなので、特に何を言ったかは覚えていない。 あの魔法学院の厨房は、今思うととても大きかった、働いている料理人の数もかなりのもの、オールド・オスマンが何処かから引き抜いたという料理長は、料理だけでなく人を使うのも上手かったらしい。 また魅惑の妖精亭の厨房は、注文を受けてから素早く料理を出せるように、保存食の置き場や調味料の置き場に工夫が凝らされていた。 ワルドが『遍在を四人出せるな』と冗談交じりに呟いていたので、あそこは四人程度が理想的な人数だったのだろう。 ここ、ウエストウッド村の孤児院は違う、本当に小さな釜戸と、申し訳程度の棚しか作られていない。 しかし、すべてがティファニアのために作られ、調節されている、この台所から感じられる不思議な安心感は他には無い。 マチルダは、ティファニアと二人で台所に立つつもりだったのだろうか?そう考えると、ルイズの胸に暖かいものが感じられた。 「ごめんなさい、お客さまなのに、手伝って貰っちゃって」 「そんなこと無いわよ、お世話になってるんだから、これぐらい手伝わないと」 ルイズが微笑むと、ティファニアも笑みを返した。 しばらくして芋の皮むきが終わると、ティファニアの指示に従って鍋の中に放り込む。 薪の燃える音と、沸騰した水の音…そして孤児院で暮らす子供の声だけが聞こえてきた。 しばらく火加減を調節していると、不意にティファニアがルイズの側に寄ってきた。 「石仮面さん。…あの、ちょっと聞きたいことがあるの。あんまりこんな事を聞いちゃいけないって、解ってるんだけど」 「どうしたの?」 「アルビオンとトリステインって、戦争してるのよね。 それって、わたしのせい?」 「え」 胸の前で両手を合わせ、申し訳なさそうな瞳でルイズを見るティファニア。 その仕草はとてもいじらしくて、見ているこっちの方が申し訳なくなるような気がした。 「ティファニアのせいじゃないわよ、何でいきなり、そんなことを聞いてきたの?」 「だって、私の魔法、とんでもないものだって石仮面さんが言ってたから……」 ルイズは「ああ」と呟いて納得した、ティファニアはウェールズを除いて唯一、アルビオン王家の血筋を継承する存在であり、しかも伝説とまで言われた虚無の使い手なのだ。 「確かに貴方の魔法は、ハルケギニアでは伝説とまで言われるものだけど、この戦争とは関係ないわよ」 「そうなの?」 「そうよ、………」 むしろ関係があるのは私の方だ、と言いかけて、言葉を飲み込んだ。 マチルダ達が野菜を取ってから戻ると、それを受け取って調理を続ける、丁度お昼になる頃にワルドが戻り、料理も出来上がった。 昼食は子供達と一緒に食べることになった、ティファニアの誘いをルイズ達が受けたのだが、それは予想以上ににぎやかで、楽しいひとときだった。 15人がテーブルを囲み、野菜と芋を煮込んだスープを食べている中、5歳ぐらいの金髪の少年がお椀を手に持って、テファの顔をじっと見つめ 「テファ姉ちゃん、おかわりしてもいい?」 と、スープのお代わりをねだっていた。 「よく食べるねえ、みんなの分も考えて食べなさいよ」 マチルダがいなすと、ティファニアがあらあらと言葉を続けた。。 「大丈夫。おかわりはまだあるわよ、今日はちょっと沢山食べても大丈夫だからね」 「「「はーい!」」」 木製のお椀を差し出す子供達を見て、ルイズがクスッと笑みを漏らした。 「本当に、にぎやかなのね」 子供達に囲まれた食卓というのも、ルイズにとっては初体験であった、ルイズが貴族のままであれば、こういった食事の機会など一生巡ってこなかったかもしれない。 「騒がしくてごめんなさいね、ほらみんな、ちゃんと行儀よく食べなきゃ駄目よ」 ティファニアがお代わりをよそりつつ、子供達を注意する、その様子を見て今度はマチルダが笑みを零した。 「ティファニアもいつの間にか、一人前だね」 「そんなこと無いわ。私、マチルダ姉さんから教えてくれたテーブルマナーとか、よく覚えてないもの」 「そう?」 「うん」 ティファニアもまた、マチルダに笑みを返している。 きっとこの二人だけの思い出があるのだろう、マチルダの優しい笑みはルイズが初めて見る笑顔だった。 「おじちゃんはお代わりしないの?」 子供の一人がワルドを指さして呟く、するとワルドは子供の指先を見て、右を見て、左を見て、ついに自分に行き当たってしまった。 「…あ、ああ。一杯で十分だよ」 「遠慮しないで食べたらどうだい、おじさん。みんなもそう思うだろ?」 マチルダがニヤニヤと蛇のような笑みを見せ、おじさん、の部分だけ強調する。 それを聞いたワルドは頬をピクピクと痙攣させつつ、無理矢理笑顔を作り出し、子供達に向かってこう言い返した。 「ハ、ハハハ。マチルダおばさんにもスープのおかわりを勧めたらどうだい」 「……!」 不意に、カチャカチャという食器の音が止まった。 子供達は何かを感じ取ったのか、ある者は器をテーブルに置き、ある者はスプーンを口に運んだポーズで止まっている。 おかしな雰囲気に気付いたルイズがマチルダの顔を見ると、口の端はイビツにつり上がって不気味な笑みを見せているのに、目はそれとは正反対に大きく見開かれていた。 ちらり、と横目でティファニアを見ると、ティファニアもおろおろと狼狽えるような視線でワルドとマチルダを交互に見ている。 マチルダに視線を戻すと、いつの間にか手には長さ25サントほどの細身の杖が握られていた、練金でワルドを圧死させるつもりだろうか。 次の瞬間には『針串刺しの刑だッ!』と叫びながらワルドを蜂の巣にしてしまうかもしれない、痴話げんかは勝手にしてくれればいいが、子供やティファニア、そして自分が巻き込まれるのは避けたかった。 この殺気を薄れさせるにはどうしたら良いか、その方法は意外と簡単に思いつくことができた。 「奥さんに向かって“おばさん”なんて、酷いじゃない。ねえティファニア」 「「!?」」 ルイズの唐突な発言に、ワルドとマチルダが慌てて視線をルイズに向けた。 ティファニアは咄嗟のことで返答に困ったのか「え?えっ?」と困惑の目でルイズを見たが、すぐに気を取り直してマチルダとワルドを交互に見つめた。 「え……そうだったんだ。だからマチルダ姉さん、ワルドさんを一緒に連れて帰ってきたのね」 「ななななな何言ってんだいテファ!あたしがどうしてこんな似合わない口ひげと!」 「なっ、何だと!父上に習ったこの口髭をバカにするか!」 「ちちうぇ? はっ、あんた母さん母さん言ってただけじゃなく、ファザコンでもあるのかい!いいかいテファ、こんな奴とは何でもないんだよ?」 少し早口で、ティファニアに言い聞かせるマチルダだったが、マチルダにとっての不運は『母さん』という単語にあった。 「でも、マチルダ姉さんもおばさま(マチルダの母)と同じ髪型よね。そっか、二人ともお父様お母様が大好きなのね」 「ちょちょちょっと!ティファぁぁぁあ!あんたいいかげんに…ってルイズ!あんた何笑ってるんだい!」 クックック、と噛み殺しきれない笑い声が漏れたルイズに、皆の視線が集中した。 「そうだルイズ!君は何を考えて居るんだ、こんな粗野な女を奥さんなどと!」 「粗野だってぇ!?その言葉そっくりそのまま返してやるよ裏切り者!」 ギッ、とワルドとマチルダがにらみ合った所で、ルイズの隣に座っていた女の子がルイズの袖を引っ張った。 それに気付いたルイズは、きょとんとした顔で自分の顔を見つめる、銀髪の女の子に顔を近づけた。 「どうしたの?」 「おねえちゃん、うらぎりものって、なに?」 「それはね、あの人一度レコン……他の人に浮気したのよ。だめなお父さんよね」 「えー。だめなおとうさんなんだー」 「さ、そんなことより早く食べちゃいましょ、夫婦喧嘩は仲が良い証拠だから」 「うん!」 「「夫婦じゃないッ!!!」」 マチルダとワルドの叫びは、これでもかと言うほど息が合っていたらしい。 「悪夢だ…」 「悪夢よ…」 「二人とも何突っ伏してるの」 夜。 孤児院の子供達が眠った頃、孤児院の一室でルイズ、ワルド、マチルダの三人が集まっていた。 あの後、マチルダは『お母さん』と呼ばれ、ワルドは『お父さん』と呼ばれ、怒るに怒れない状態で食事が終わった。 ティファニアにルイズの名が知られてしまったが、この際仕方がない、『ルイズ』というのは昔の名だと教えておいた。 机に突っ伏しているマチルダとワルドの二人は、頭を抱えるような形で両手を後頭部で組んでいる、ルイズはその様子を見て思わず『やっぱりお似合いじゃない』と思い、ほくそ笑みながら二人を見ていた。 「ほら気を取り直して、ワルド、薪拾いの成果は?」 ワルドはむくりと身体を起こし、ふぅとため息をつく、懐から一枚の紙を取り出してテーブルに広げると、ある一カ所を指さした。 「ここがウエストウッド村、僕たちの居る場所だ。この街がサウスゴータ、そしてこっちがロサイスだ」 テーブルの上に広げられた紙は、アルビオンの地図だった。ワルドは朝の薪拾いの時点で、遍在を各方面に飛ばしていたのだ。 「ルイズが以前見た時は、サウスゴータは洗脳されていたそうだな。今日見てきた限りでは洗脳されているとは思えなかったが、都市の規模に比べて活気がなさ過ぎる、かなりの人数が徴兵されたか、労働力として連れ去られたらしい」 「ったく、胸くそ悪いね」 マチルダが吐き捨てるように言うと、ルイズも無言で歯を噛みしめた。 「それで、一つ気が付いたんだが…竜騎兵が四六時中飛び回っていたんだ、アルビオンの竜騎兵はタルブ戦でほとんど失われたはず、だが今日だけでも、風竜一頭に火竜四頭を目撃した。 街道沿いに向かった遍在と、サウスゴータに向かった遍在が同じ風竜を見ている、これはおそらく住民を監視しているのだろう。 そして他の火竜だが、竜騎兵を戦闘に無人の竜が三匹従っていた、しかも幼いように見える。 おそらく火竜山脈か…どこかで羽を休めている火竜を見つけ、戦力にしようとしたんだろう、幼い竜でも戦力としては十分だからな」 ワルドが言葉を句切ると、ルイズが地図の上を凝視した。 そこにはワルドの遍在が調査した、風竜の飛行ルート、ならびに関所とも言うべき臨時ゲートの位置が記載されている。 「今、遍在は…三体、位置は微妙ね。ニューカッスルには近づけそう?」 「無理だな。街道からではとても近づけないし、森の中も難しい、風竜より目の良いグリフォンが配置されている、見つかりそうになって慌てて一体を消したぐらいだ」 「…クロムウェルを直接叩きたいけど、そのためには森の中か…うーん」 ルイズは腕を組んで、地図とにらめっこを開始した。 風竜の機動力、グリフォンの目、これだけでもニューカッスルに接近するのは厳しい。 もしレコン・キスタが、地下の臭いに敏感なジャイアントモールや、風の臭いに敏感な狼、夜の気配の察知にやたら敏感なバグベアーなどの使い魔達を配置していたら、ますます接近は難しくなる。 「……サウスゴータで情報を集めましょう。明日の朝出発するわよ。マチルダはここに残って、テファにものしもの事が無いよう備えて」 「元からそのつもりさ、クロムウェルを暗殺するのには手を貸せないよ、相手が大きすぎるからね」 あっけらかんとした態度でマチルダが答えるが、決して軽い気持ちで言っている訳ではなかった。 「…守りは、攻撃の五倍の兵力が必要…だったっけね。あたし一人でどこまでできるか解らないよ。捕まってもせいぜいゲロすんじゃないよ」 「解ってるわ。ティファニアを守ってあげてね」 ルイズの言葉を聞いて、マチルダは笑みを浮かべた。そしておもむろに立ち上がると、部屋を出て自分の部屋に帰っていった、マチルダの部屋はティファニアと同室で、今日は久しぶりに一緒に寝るらしい。 「…なあ、ルイズ」 「何?」 マチルダが出て行った後、静かになった部屋の中で、ワルドが口を開いた。 「君も人を踊らせるのが上手くなったな、まあ、子供達の前で魔法合戦を繰り広げずに済んだが…」 「ああ、お昼の事ね。マチルダの殺気ったら凄かったもの。あとでテファに聞いたら、おばちゃんって言われてゴーレムでお仕置きしたこともあるんですって」 「子供相手に容赦がないな」 「ええ、まったくね。 ……ワルド、貴方は部屋で寝ていて、今夜は私、見張りをするわ」 「君が見張りを?いや、僕がやるよ」 「だめよ、貴方には遍在をいくつも使わせてるんだから、ちゃんと体力を回復させてよね」 そう言うとルイズは、壁に立てかけていたデルフリンガーとローブを掴み、窓から外へと飛び出していった。 『……』 カチャ、と音が鳴る。 ルイズは孤児院の屋根の上に乗り、デルフリンガーを枕代わりにして、仰向けに寝そべっていた。 デルフリンガーの金属部分が月光に反射し、目立ってしまうのは困るので、デルフリンガーにはローブが巻き付けられ金属部分が覆い隠されている。 『……』 再度、カチャリと音が鳴る。 「何か言いたいことでもあるの」 ルイズが呟くと、デルフリンガーが鍔を小さく鳴らして、小声で呟いた。 『何か言いたいことがあるのは、そっちじゃねえのか』 「…………」 ルイズは図星を疲れたのか、息を止めて黙ってしまった。 たっぷり一分間の沈黙の後、ふぅと大きなため息をついて呼吸を再開し、身体を横に向けた。 眼前には、デルフリンガーの鍔があった、ルイズはそこに顔を近づけ、囁く。 「人間は、人間と結ばれるべき、そう思うでしょ」 『まあ同種族ってのが健全ではあるなあ』 「吸血鬼に惹かれる人間なんて、あってはならないの、それが愛情であっても、憧れであっても」 『おめえ、寂しがり屋のくせに、よくそんなことが言えるな』 「前にも言ったでしょ、私が欲しいのは友達よ。私を、対等に扱ってくれる、友達」 『じゃあ何か、ワルドがおめえを上に見てるから、わざと意地悪な冗談を言ってやったってことかい』 「……うん」 『難儀だな』 「でもね、意地悪じゃないの、二人は、決して仲が悪いとは思えないの。ワルドさまは自分で自分の未来を閉ざそうとしてる。私、初恋の人を、巻き添えにしたくない……」 『……』 「今回の任務だって、ワルドさまを連れて行くの、怖かったの……もし、もしこの任務でワルド様が死んだら、私のせいよ。わたしは必要なら、あの人に死んで来いと命令しなきゃならないの……」 『嬢ちゃん、おめえ、優しすぎるよ』 月が雲に隠れ、辺りが暗くなった。 暗闇の中でルイズが呟く。 「わたしは、わたしは、ただのばけものよ」 デルフリンガーは、少女に虚無を授けた原因、始祖ブリミルに悪態を突いてやりたくなった。 自分の身体が人間なら、この少女を抱きしめてやりたいとすら思った。 でも、ブリミルはもういない、デルフリンガーの身体はただの剣。 そして何もかも忘れて眠ることも、剣なる身ではできないので、デルフリンガーは沈黙することしかできなかった。 「かんぱーい!」 「あらあらジェシカったらもうそれで十杯目よ。シエスタちゃんも遠慮せずどんどん飲んでね」 「あ、あの私こんなに食べ切れません…」 時間は少しさかのぼる。 王宮に水の秘薬を献上したカリーヌ・デジレ達は、そのまま魔法学院に立ち寄り、シエスタとモンモランシーを送り届けるはずだった。 しかし、モンモランシーは此度の功績を聞きつけた両親に連れ去られてしまった。 カリーヌはシエスタ一人でも送り届けようとしたが、シエスタはそれを断り、ある場所へ立ち寄ることにした。 ラ・ヴァリエール公爵夫人カリーヌの誘いを断るのは、トリステインの貴族達には考えられぬほどの無礼として写りかねない、しかし生まれついての貴族ではないシエスタには、そんなことは解らなかった。 また、カリーヌ自身もシエスタを咎める気など無く、むしろシエスタを後押しするという立場を取った。 『魅惑の妖精亭』は、カリーヌのような高級貴族に一生縁のない場所ではあるが、それがシエスタの親戚であると言うのなら話は別。 それに魔法学院に来る前には、ジェシカに城下町を案内され、危険から身を遠ざける知恵などを教えて貰っている。 お世話になった親戚に晴れ姿を見て貰いたい、その言葉に、カリーヌは微笑んだ。 「らによー、もう、しゅう゛ぁりえになるならぁ、もっと早くお店に顔出しなさいよぉ」「ジェシカったら飲み過ぎよー、ほらお水」 時間は夜、既にお店は開いており、ジェシカはシエスタを祝うため、仕事を店長のスカロンに任せて、二人っきりでお酒を飲み、料理をつまんでいた。 ジェシカは既に顔を赤くし、目も座っている。 二人がお酒を飲んでいる個室は、住み込みで働いている女の子達のために『魅惑の妖精亭』で準備した部屋であった。 酔っぱらったジェシカの話では、ついこの間お店を止めていった兄妹が、この部屋を使っていたらしい。 「んぐっ、んぐっ…らにこのお水、美味しい…ふわぁ…」 「ほら、もう眠いんでしょ、ジェシカ」 シエスタから渡された水を飲むと、ジェシカの目つきが急に眠そうなものに変わる。 そもそもジェシカが酒に酔うこと自体あまり考えられない、子供の頃からジェシカはお酒の量を知っていた、お店で働く以上必要なスキルかもしれない。 だか今日は、酔っぱらう程祝ってくれている、シエスタはそれが嬉しい反面、やはり申し訳ない気持ちもあった。 波紋入りの水を飲んだジェシカは、すぅ、すぅとそのまま寝息を立ててしまう、シエスタはジェシカの身体を持ち上げるとベッドに寝かせ、そのまま波紋を流した。 二日酔いにでもなったら困るので、身体に負担が残らぬ程度まで、波紋で解毒をする、お酒も毒の一種だと気付いた時はシエスタも苦笑せざるを得なかった。 「ありがと、ジェシカ。わたし頑張るからね」 そう言ってジェシカの身体を横に向ける、万が一寝ながら嘔吐した時、窒息させないためだ。 そっと布団を被せ、シエスタはジェシカの髪の毛を手櫛ですいた、自分と同じ黒髪でも、ジェシカのは若干硬く、そして艶やかに見えた。 「ロイズぅ……また来てよぉ」 「ロイズ?」 ジェシカの寝言が意外だったのか、シエスタは寝ているジェシカに聞き返した、しかしジェシカが返事するはずもない、すぅすぅと寝息を立てている。 「……ロイズ、かぁ」 名前が似ているだけ、たったそれだけのことで、ある人のことが思い出されてしまう。 魔法学院の昼食時、『ありがとう、美味しかったわ』と言ってくれたルイズの姿が、シエスタの脳裏に浮かび上がった。 「まさか、ね」 自嘲気味に呟いて、部屋に備え付けられた鏡台を開き、椅子に座る。 ルイズはもう居ない、居たとしたらそれはもうルイズではない…はずなのだから。 鏡台の引き出しからブラシを取り出す、誰かが使っていたものらしく、ブラシには茶色い毛が絡まっていた。 気のせいか、髪の毛は地面に掘り出されたミミズのように、うねっ、と動いた気がした。 「やだ、私まで酔ったのかな」 そう思ってブラシを置き、顔を両手で挟み込む、深呼吸をして身体と意識を落ち着かせると、もう一度ブラシを掴もうとして……思いとどまった。 「……」 そっと、今度は確かめるように、何か確かめてはいけないものを確かめるように、恐る恐る、波紋の通った手で髪の毛に触れた。 ガチャリと扉の開く音がして、スカロンが振り向く。 倉庫からワインの入った箱を取り出そうと、腰をかがめたところだったので、身体をくねらせるようにしてシエスタを見た。 「スカロンさん」 「あらシエスタちゃん、どうしたの?」 「今日中に帰らなければいけないので、今日はこれで失礼します」 スカロンは残念そうに唇をとがらせ、手を胸の前で組み、くねくねと動きながらシエスタの側に寄った。 「あら、魔法学院は忙しいのね。今日は泊まっていって貰えれば良かったのよ」 「ごめんなさい、どうしても急いで帰らなくちゃならないんです」 「じゃあ馬を手配するわね、少し待ってて」 「大丈夫です、手配して貰えるよう頼んできましたから」 「そっか、じゃあシエスタちゃん、またいつでも遊びに来てね」 「はい。……あの、一つ聞きたいことがあるんです。ジェシカが泥酔しちゃって、ロイズって人の名前を呟いたんですけど…」 スカロンが驚いたのか、目をぱちくりとさせた。 ジェシカがロイズの名を出したことに驚いたのか、それとも泥酔するまで酒を飲んだことに驚いているのかは解らない。 「あら~、あの子ったら、かわいい妹分が出来たみたいで喜んでいたのよね。ロイズちゃんはこの間辞めていったの、ちょっと訳ありで、旅を続けているんですって」 「そうですか…あの、もしかして、その人に火傷の痕はありませんでしたか?」 「ううん。見えるところに火傷は無かったと思うわよ」 シエスタが俯く、なぜかその拳は握りしめられていた。 「……わかりました、ありがとうございます。これはおまじないです」 「おまじない?」 スカロンが聞き返すと同時に、シエスタはスカロンの手を握った。 ぼんやりと身体が輝くと、スカロンの身体は少しずつ軽くなっていく気がした、いや、実際に身体が軽く感じるので、驚いたように自分の身体を見渡した。 「スカロンさん、働き過ぎですよ、いろんな筋肉が凝り固まっていました」 「あらーそうなの、これがシュヴァリエを賜った『技術』なのね?」 「はい。でも人には言わないでくださいね」 「ええ、わかってるわよ」 スカロンがにっこりと微笑むと、シエスタも微笑みを返した。 だがその微笑みの下には、言いようのない罪悪感と困惑が渦巻いていた。 ダダダッ、ダダダッ、と、馬が蹄の音を鳴らして駆けていく。 馬上ではシエスタが、魔法学院の方向を一心不乱に見つめていた、早く到着しろ、早く到着しろと叫ぶかのように、手綱を握る拳が固められていた。 シエスタの左腕には、丸くなったマントが抱えられている。 マントの中には『魅惑の妖精亭』から失敬した、拳が難なく入る程度の瓶が包まれている。 その瓶の中には、ロイズという人物が使っていたであろうブラシが入っている。 ブラシには、染料で茶色く染められた、ピンク色の髪の毛が絡みついていた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2115.html
夜。 トリスタニアの宮殿、アンリエッタの居室に、窓から淡い月光が差し込んでいる。 すぅすぅと聞こえてくる寝息は、この部屋の主アンリエッタのもの。 窓際でワイングラスを片手に、もう一人のアンリエッタが椅子に座って月を見上げていた。 アニエスの手でリッシュモンが死んでから、今日で丁度三日目の夜になる。 リッシュモンの屋敷から押収された手紙や調度品から、リッシュモンとロマリアの繋がりが白日の下に晒された……かに見えた。 しかし、リッシュモンを取り巻く賄賂の動きや、漏洩した情報の動きを調べていく内に、この事件がとても公表できぬものになってしまった。 表ではアンリエッタを褒め称え、裏ではロマリアやレコン・キスタに接触しつつ、財産を溜め込み、保身を計っていたリッシュモン。 報告書を受け取ったマザリーニも呆れたように「みごとなものだな」と呟いていた。 この事件のすべてを公表すると、トリステインという国家の運営に著しい停滞を招きかねない。 アンリエッタは、汚職を働いた貴族達に厳しい罰を与えるとしながらも、事件の全容は公開せず、内々で処理することを決めた。 それを聞いたルイズは、納得いかないと言った顔でアンリエッタを見つめたが、アンリエッタがルイズの視線に気づき申し訳なさそうに目を伏せたので、ルイズもまた仕方ないといった顔でため息をついた。 「何が政治よ、何が貴族よ……。 貴族らしさにこだわって、名誉に餓えていた私がバカみたいじゃない」 ルイズが小声で呟く。 ちらりとベッドに視線をやると、アンリエッタは相変わらずすぅすぅと寝息を立てて熟睡していた。 まるでトリステインの貴族を否定するような言葉だったが、ルイズはその言葉を、アンリエッタにも聞いていて欲しかった。 アンリエッタは女王となってからほぼ休みなしで働いている、女王として貴族達に見せる姿は凛々しいが、居室に戻ると着替えるのも忘れてベッドに倒れ込むことも多い。 今日は特に疲れがひどく、居室に戻ったアンリエッタはルイズの姿を見た途端倒れてしまったのだ。 水系統のメイジが呼ばれ、アンリエッタを診察したところ『過労』という診察結果が出た。 アンリエッタを明日の昼まで休ませて欲しいと、ルイズが進言したところ、マザリーニは二つ返事でそれに賛同した。 スケジュールの調整を侍従に命じると、マザリーニはルイズにこう言った。 「陛下は、生まれる前から王家に仕えていたリッシュモンが裏切ったと知って、心を痛めております。自分がもっと女王として相応しければ、こんな事も起こらなかった……そう思って公務に打ち込んでいるのです」 「そんなの、後の祭りよ。それにどんな女王だって一人で何でもできる訳じゃないわ、アンは自分を責めすぎるのよ」 「その通りですな…。ですがその責任の一端は貴方にもあります、ご存じでしょう」 「……」 ルイズは、何も言い返せなかった。 月明かりに照らされたルイズの手から、ワイングラスが離れる。 指先だけの力で無造作に投げられたワイングラスは、ルイズの背丈よりもずっと高い天井すれすれまで跳ね上がった。 グラスの中に残っていた一口分に満たないワインが、空中で逆さになったグラスから零れて、ルイズの顔にぽたぽたと付着した。 天井と、顔に付着したワインを血に見立てて、ルイズは自虐的な笑みを浮かべた。 吸血鬼でありながら人間に味方し、トリステインとアルビオンの戦争を優位に導き、そして今回リッシュモンを狩った。 あまりにも都合の良すぎる存在、それがわたしだ。 どんな女王だって一人で何も出来る訳じゃない。 でも、ルイズは一人で戦い、一人でウェールズを助け、一人でフーケとワルドを味方に付けてしまった。 アンリエッタは、ルイズのもたらしたものに憧れを抱いている。 子供の頃から孤独感にさいなまれ、吸血鬼になってすべてのしがらみを捨てようとしたルイズの気持ちを知らず、アンリエッタはただただ憧れている。 アンリエッタは人間としてルイズに近づきたいと思っている。 子供の頃に聞かされたトリステインの誉れ『烈風』や、祖父のような偉大な貴族になり、理想的な女王になって、ルイズと肩を並べたいとアンリエッタは考えている。 ルイズが窓辺の席を立つ、ゆっくりとした動きで、静かに、足音を立てずにアンリエッタに近づく。 布団をめくりあげると、アンリエッタの手は腹を包むように置かれていた、まるで腹に我が子がいるかのようで、それがとても愛おしい。 「……アン。私はただの化け物よ…。 私に憧れちゃ、だめ」 ルイズはそう呟いて、眠っているアンリエッタの頬に軽い口づけをした。 顔に浴びたはずのワインは、いつの間にか跡形もなく消え去っていた。 同じ頃、王宮の地下室で、一人の男が寝息を立てていた。 木の板に粗末な布を敷いただけの簡素なベッド、石造りの壁、鉄格子ののぞき窓がはめられた扉。 この部屋は、王宮で不正を働いた者を一時的に拘置する牢獄であった。 ルイズと共に魅惑の妖精亭から戻ったワルドは、杖を取り上げられこの部屋に案内されたが、ワルドは怒りもせず悪びれもせず、居眠りの準備をしだした。 左腕の義手を外して、頭の下に敷いて枕代わりにする。 もう何度見つめたか解らない左腕の切断面を、確かめるように見つめてから、右手で切断面をゆっくりとさする。 ふぅ、とため息をついて目を閉じると、疲れが溜まっていたせいか、ワルドはあっさりと眠ってしまった。 それ以来やく三日間、光もろくに差し込まない牢屋で、ワルドは自分への罰を待っていた。 カツン、という金属の音とともに扉が開かれる。 ワルドが薄目を開けて音のした方を見ると、開かれた扉の前に、銃士隊の隊長であるアニエスの姿があった。 「僕の処遇は決まったか」 寝そべったままの姿でワルドが呟くと、アニエスは腰に下げた筒の中から一枚の羊皮紙を取りだし、ワルドに見せつけた。 「ジャン・ジャンク・フランシス・ド・ワルド。貴公は『レコン・キスタ』への諜報任務のため、タルブ戦役に於いてトリステインに公然と反旗を翻した。 その被害は甚大であり、国家反逆の罪が当然ではあるが、貴殿の『諜報活動』によってトリステインが有益なる情報を得たのもまた事実である。 この度、リッシュモンをはじめとする反逆者の捕縛、処刑に成功し、貴殿の反逆行為は作戦上やむを得ないものとして認めるに至った。 よってジャン・ジャンク・フランシス・ド・ワルド子爵に、新たにアルビオン潜入任務を下す……」 そこまで言うと、アニエスは手に持った羊皮紙をワルドに渡した。 ワルドは寝たままの姿で、無造作にそれを掴むと、字も読めない牢屋の中で羊皮紙をまじまじと見つめた。 「よく読めるな、こんな暗い部屋で」 「読めるわけがあるか。暗記しただけだ」 ワルドが感心したように呟くと、アニエスがそれを否定した。 「それにしても、諜報任務か…僕はトリステインからの命令で『反逆』した、ということか。これは枢機卿の発案かな?」 「ああ、殿下(ウェールズ)も驚くほどすんなりと、その案を受け入れていた。どうやらワルド子爵には、まだ死なれては困るようだな」 アニエスが、どこかあざ笑うような雰囲気を漂わせて語る。 それに触発されたのか、ワルドは「ふん」と不機嫌そうに鼻を鳴らした。 「……僕は処刑されると思っていたんだがな。拍子抜けだ。リッシュモンの言葉ではないが……この国は詰めが甘い」 「ルイズから伝言だ。処刑より酷くこき使ってやるから覚悟しておけ、だとさ」 がばっと音を建ててワルドが上体を起こす。 「ほう、ルイズがそんなことを言っていたのか? 嬉しいな、彼女に使われるなら本望だ」 そう言ってワルドは右手で顔を覆い、クククと笑い出す。 その様子を見ていたアニエスが、音もなく腰に下げた剣を引き抜くと、落ち着いた動作でワルドに切っ先を向けた。 「気に入らないな…本当に気に入らないな。なぜそんな笑っていられる?」 質問というより、尋問のような態度でアニエスがワルドに問いかける。 ワルドは杖を取り上げられているというのに、なぜか楽しげにしていた。 「なぜリッシュモンを殺さなかった、なぜ私にリッシュモンを殺させた! 哀れみのつもりか」 「哀れみではないよ、ただ、君にはその権利があると思ったまでのことだ」 「権利だと?復讐に権利があるのなら、貴様にもその権利はあったろう、なぜそれを放棄したのかを聞いているんだッ!」 ワルドは顎に手をやり、ふむ、と呟いた。 「ふむ…なるほど、君にとって『復讐』は何にも優先するのか。 ははは!」 がつん! という音が石造りの部屋に響いた。 アニエスが剣を握った手で、ワルドを殴ったのだ。 「ふざけるな!カタキを討とうともせず、なぜそんなに飄々としているんだ貴様は!答えろ、答えろ!」 ほお骨に響く痛みに、ワルドは顔をしかめたが、それすらどこか楽しそうだった。 余裕があると言うべきか、ワルドにはアニエスにはない『安心』があるように見えた。 「……からかったと思われたのなら、謝罪しよう。だが今のは本心でもある。ミス・アニエス、君は昔の僕そっくりだ」 「なんだと…?」 アニエスが忌々しげにワルドを睨んだ。 「丁度、魔法衛士隊の隊長になった頃だ、僕はこの国に見切りを付けていた。僕の思うままに動かない貴族どもは生きる価値がない…とまで考えていた」 ベッドに手をついて身体の向きを整え、座り直しつつ、ワルドが言葉を続けた。 「あのころ僕は、父と母に教え込まれた『貴族としてのふるまい』が崩れていくのを感じていたよ。半ば公然の秘密になっていた賄賂といい、汚職といい、僕を絶望させるには十分だった」 ごそごそとポケットを探ると、中に絵の仕込まれたロケットが出てきた。 ワルドはロケットの感触を確かめると、中に入っている母の絵を思い出し、微笑んだ。 「解るかい?絶望していた僕に、彼女が、ルイズが現れたんだ、気高いままに、誇り高いままに、信念を持ち、そして僕を導いてくれた! ……そのとき気付いたのさ、僕は仕えるべき主を欲していたとね。その喜びに比べれば敵討ちなど霞んでしまう」 アニエスが剣を突き立てる。 ほとんど光の差し込まない空間だというのに、アニエスの剣は正確に、ワルドの喉元に狙いを付けていた。 「ワルド…貴様、敵討ちなど、どうでもいいとでも言いたいのか?」 殺気を込めた言葉が、アニエスの口から紡がれたが、ワルドはそれを意に介す様子はなかった。 「そんなはずはない。僕も敵討ちをしたいと思ったさ、だが僕の場合は、僕自身の不甲斐なさが原因でリッシュモンに付け入れられたんだ。僕がもっとしっかりしていれば母が自殺することも無かったろう」 アニエスは黙ってワルドの言葉を聞いていた。 ワルドは、アニエスの剣を右手でやさしく掴むと、切っ先を喉元から逸らした。 「僕は仮にも『貴族』だ。リッシュモンの横暴に対処すべき立場でありながら、横暴に屈した『堕落した貴族』だ。君は違う、君はダングルテールの虐殺の時なんの力もない子供だったそうじゃないか、僕は君を前にしてカタキを横取りするほど無粋ではない」 「ッ…」 アニエスは小さく舌打ちをすると、剣を鞘に収めた。 「後ほどルイズがここに来る。指示は彼女から下されるはずだ」 そう言って、踵を返し地下牢を出て行くアニエスを、ワルドは『やれやれ』と言いたげな瞳で見送った。 ワルドがしばらく待っていると、誰かの足音が聞こえてきた。 ギィ…と音をたてて扉が開かれ、アンリエッタそっくりに変装しているルイズが牢屋に入ってきた。 「アニエスに何か言われた?」 ルイズが扉を閉めつつ呟くと、ワルドはベッドの上に座ったまま、苦笑して答えた。 「彼女は、僕がリッシュモンを殺さなかったことに不満らしい」 「まあ、でもアニエスらしいといえば、アニエスらしい考えかもしれないわね」 懐から金属製の短い棒を取り出す、それは長さ30サントに満たない短剣のような作りであったが、刃はなくニードルのような形をしている。 ワルドがそれを手渡されると、重さや、握りの加減を確かめはじめた。 手の中でクルクルと回転させていると、不意にワルドが「見事だ」と呟いて、ほほえみを見せた。 「盗賊の使うような、無骨なナイフに見えるわね」 ルイズがそう呟きつつ、ワルドの隣に腰を下ろす。 「余計な飾りはいらないさ、ある程度の剣なら受け止められる強度が必要なんだ。これは一応戦いの中で使われる『杖』だから」 ワルドが手に持った短剣は、魔法衛士隊の使う剣状の杖を切りつめて、装飾を廃したもの……平たく言えば、ナイフ状の杖だ。 「ねえ…ワルド、アルビオン行きのめどが立ったわ、明日の深夜、火竜を一頭借りて出発する予定よ」 「そうか。……もしかして僕と、マチルダと、君の三人で乗るのか?」 「そう言うことになるわね」 「明日、明後日か…となるとアルビオンはガリア寄りになるな。火竜で三人を運ぶのは辛いんじゃないか」 「貴方の『フライ』に期待してるのよ。風のスクウェアならアルビオンまでひとっ飛びでしょう?」 「買いかぶり過ぎさ、僕は火竜を補助しかできないよ。風向きが味方してくれればそれほど苦にはならないと思うがね」 「期待しているわ」 すこしの間、沈黙が流れた、ワルドもルイズもじっと黙って、暗い部屋の中でお互いの呼吸音だけを聞いている。 不意に、ルイズが口を開いた。 「…ねえ、ワルド」 「なんだい」 「納得、してる?」 「任務にか?」 ルイズが首を横に振り、否定を表した。 「それもそうだけど、もっと大事なことよ、貴方は死ぬつもりだったのに……死を覚悟していたのに……処刑されるつもりだったのに」 ワルドはルイズの言葉を聞いて、苦笑した。 この少女はあれだけ人を殺しておきながら、自分の身を案じてくれているのだと理解したからだ。 確かにワルドは死ぬつもりで王宮に戻った、だが死ぬために戻ったのかと聞かれれば、それは違うと言える。 「ルイズ、僕は感謝している。復讐も、処刑も、僕にとっては選択肢の一つに過ぎない。大事なのは…君が僕に命令してくれることだ。君が死ねと命令してくれるのなら僕は喜んで死ねる」 ルイズは肩を縮こまらせて、夜目の利く瞳でワルドの顔をのぞき込んだ。 「ねえ、ワルド……私のこと、今でも婚約者だと思ってる?」 夜目の利くルイズの瞳は、とても真面目な表情をしているワルドの顔を捕らえている。 「以前は、婚約者でもあり、妹のようなものだと思っていた。だが今は違う、君は僕の主君だ」 「………そう、貴方の気持ちは分かったわ。アルビオン出発前の準備は、ウェールズ皇太子の指示を仰いでね。それじゃ私は仕事に戻るわ」 ルイズはそう言って立ち上がると、無言で牢屋を出て行った。 ワルドはルイズが部屋を出て行った後、短剣のような杖をかざすと、先端に魔法の光を灯した。 先ほどのルイズの態度に、気になるところはあったが、具体的に何が気になったのか自分でもよく解らい。 ワルドは義手と、アニエスから渡された羊皮紙を手に持つと、着替えを済ませるべく、古巣である魔法衛士隊の宿舎に向かって歩き出した。 「僕は『二重スパイ』か、やれやれ……部下達にどんな蔑みの目で見られることやら」 苦笑混じりに呟いて、ワルドは自分の置かれている状況を鑑みた。 意外にも、自分はこの状況を楽しんでいるのだと、自覚した。 アンリエッタの居室に戻ろうとしたルイズは、窓の外がうっすらと明るくなっているのに気づいた。 このまま居室に戻っては、眠っているアンリエッタを起こしてしまうかもしれない、そう考えたルイズはアンリエッタの居室ではなく、別の方向へと足を進めた。 ルイズの目の前には大きな扉がある、人間が並んで四人は通れそうな幅があり、高さも3メイル以上はあるだろう。 扉の上半分は半円を描いており、壁との隙間は髪の毛一本ほどもない。 その扉の前には一人の衛兵が待機しており、ルイズの姿を確認すると必要最低限の動作で目礼をした。 ここは王宮で扱われた資料を保管する資料室であり、トリステイン魔法学院や、アカデミーから届けられる書類も最終的にはこの部屋に保管されることになっていた。 ルイズがアンリエッタから渡された羊皮紙を取り出し、衛兵にそれを見せると、衛兵は無言で資料室の扉を開けた。 資料室の中に入ったルイズは、ぺらり、ぺらりと紙をめくる音に気付き、先客の姿を探した。 魔法学院の図書室に負けぬ大量の本棚、その間をくぐり抜け、人間には聞こえないほど小さな本をめくる音を探していく。 いくつかの本棚の脇を通り過ぎたところで、アニエスの姿を確認した、よく見るとアニエスは紐で綴られた報告書の束を手に持ち、何かを探している。 ルイズはわざと本棚を軽く小突き、コツンと音を出してからアニエスに近づいた。 「……? 影武者か」 ルイズの姿に気付いたアニエスは、一言呟いてから手元の資料に視線を戻し、また資料を一枚一枚めくり始めた。 「捜し物?」 「まあ、そんな所だ」 ルイズの質問に素っ気なく答えるアニエス、資料を見つめるその視線は、真剣なものではあったが、時々困惑の色が見えた。 ルイズが本棚を見る、いくつかの資料の背表紙には、魔法アカデミーの紋章が描かれている、おそらくこの本棚はアカデミーに関する資料が収められているのだろう。 「困惑しているのね」 「…!」 ルイズは当てずっぽうで言ったつもりだが、アニエスは意外にもびくりと身体を硬直させて目を見開いた。 何に困惑しているのか解らないが、困惑していること自体図星だったようだ。 ほんの一分にも満たない静寂の後、アニエスがふぅー…と長いため息をついてからルイズ顔をにらみつけた。 「…当てずっぽうで言ったな」 「あら、解っちゃった?」 「だが驚かされたのは事実だ、心を見透かされたかと思ったよ」 「でも私の当てずっぽうって、よく当たるのよ、まあ何に困惑していたのかは知らないけれど」 ルイズがそう言うと、アニエスは手元の資料をルイズに手渡した。 開かれたページにはある下級貴族のプロフィールが書かれており、治癒に熟達したメイジとして高い評価を得ているのが解った。 「これは?」 「ダングルテールを焼き討ちした、アカデミー実験小隊の一人だ。……そいつの事なら風の噂で聞いている、平民にも治癒を施すメイジだそうだ」 「へえ…なら、アニエスはこの人も殺すの?」 アニエスは黙って本棚を見つめていたが、まるで自分に言い聞かせるように、小声で呟きはじめた。。 「わからない。殺す…かもしれない」 「かもしれない?」 「正直、私はあの事件に関わったすべての人間を殺してやりたい、だが、その中には他にも、領地を守って死んだ者や、平民の見方をする者もいる。殺してやりたい…殺してやりたいが…」 「決心が揺らいだの?」 ルイズの呟きに、アニエスは辛そうな目をして、視線を床に向けた。 「あのワルドのせいだ、なぜアイツは敵を私に譲ったのか、それが解らないんだ。答えてくれ『石仮面』。貴族は誰かに仕えたがるものなのか?人に仕えるというのは、復讐心を忘れ去れるほど甘美なのか?」 「…ごめんなさい、貴方の質問に答えられるだけのものを私は持っていないわ」 「そうか…」 アニエスはあからさまに落胆し、目を伏せたが、すぐに視線をルイズに向け直した。 ルイズの持っている資料を再度自分の手に持ち直すと、ぺらぺらと音をたててページをめくり、無造作に破られた痕のあるページを見つけ出した。 「このページだ、順番からいくとこのページが小隊の隊長だろう。なぜかこのページだけが破かれている。おかしいと思わないか」 ルイズはアニエスが持つ資料をのぞき込み、破られた痕をまじまじと見た。 「復讐を恐れたんじゃないの?」 「いや、いくつかの資料で、この小隊がアカデミーによって組織された下級貴族の部隊だと解った、この資料庫に入れるような立場の者は一人もいない」 「なら、このページを破いたのは…」 「ダングルテールの虐殺に間接的に関わった誰か…おそらくアカデミーの者か、リッシュモンのように賄賂を受け取っていた者だろう。この男の身柄が拘束されれば、そこから関係者の名前を聞き出すことが出来るからな」 ルイズがアニエスに視線を移す、するとアニエスの瞳は、何の感情も読み取れない空虚な雰囲気を漂わせていた。 怒りでも悲しみでもない、機械的に復讐を遂げようとする、束縛にも似た決心がアニエスの瞳から伺えた。 「コイツだけは…絶対に殺す、他の奴はともかく、こいつだけは絶対に殺してやりたい!なぜ私を生かしたのか、その理由がどんな理由であれ、絶対に後悔させてやる……!」 アニエスはふと顔を上げて、資料を閉じて本棚に戻すと、隣に立つルイズに顔を近づけて小声で囁いた。 「アルビオンで、首に火傷の痕を持った火のメイジを見つけたら、私に教えてくれないか」 「首に火傷の痕?どれぐらいの?」 「かなり大きい範囲だったと思う、私が唯一覚えている敵の姿だ……生け捕りにできなくてもいい、ただ、どんな奴だったのかだけでも教えて欲しい」 「約束するわ…もっとも私に可能な範囲でだけど。万が一、あなたの敵が首の火傷痕を治癒していたら、私にも解らないわよ」 「それはそれで仕方ないさ、私も私で調査を進めさせて貰うしな。 …さて、そろそろ私は宿舎に戻りたいが…そっちは、なぜここに来たんだ?」 「私は、ちょっと気になることがあって。貴方に比べたら大したことじゃないわよ」 「そうか」 アニエスは興味なさげに答えると、ルイズの脇をすり抜けて本棚の間を通り、資料庫を出て行った。 人の気配が無くなった資料庫で、ルイズは一人天井を見上げる。 ルイズの二倍はありそうな本棚の上には、本棚に収まらないサイズの箱がいくつも並べられていた。 膨大な資料を見渡して、ため息をつくと、ルイズは誰もいない部屋で呟いた。 「アニエス、私は誰に復讐すればいいのかしら。私をこんな身体にした仮面、それとも、それを呼び出した自分にかしら」 先ほど、ワルドに言われた言葉を思い出す。 『以前は、婚約者でもあり、妹のようなものだと思っていた。だが今は違う、君は僕の主君だ』 「みんな吸血鬼の私を慕ってくれる。虚無の使い手である私を慕ってくれる。でも、裏を返せば『ゼロのルイズ』には誰も慕ってくれない……」 「お母様、なんで私を産んだの?」 ルイズの呼び声に答えるかのように、この日の昼頃、ある人物が王宮を訪れる。 その人物は、シエスタとモンモランシーの手によって得られた、大量の『水の秘薬』と、水の精霊とトリステインの『関係改善』を手みやげに、ラ・ヴァリエール家の紋章が描かれた豪華な馬車に乗って来訪した。 その人物の名を、カリーヌ・デジレという。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1784.html
少し時間はさかのぼり、タルブ戦が開戦する前日。 ロングビルは、学院を飛び出してタルブ村へと向かったシエスタを追いかけていた。 シエスタが馬に乗って魔法学院を出てすぐ、具体的には10分ほど遅れてロングビルは魔法学院を発った。 ロングビルは自身の体に『レビテーション』をかけて馬の負担を減らし、少しでも早く追いつこうしていたのだが、おかしなことにシエスタの姿が見あたらない。 もしかして、私の知らない裏道でもあるのだろうか?と考えはじめたところで、ロングビルは空を飛ぶ竜騎兵に気がついた。 トリスタニアの方角から、ラ・ロシェールに向かってトリステインの軍隊が移動しているのだ。 「道をあけろーっ!」 ロングビルの背後から声が聞こえてきたので、馬を街道の脇に寄せて軍隊の邪魔をしないように努めた。 彼女の騎乗した馬には魔法学院の紋章のついた鞍と鐙(あぶみ)がつけられているので、特に疑われもせず軍隊は通り過ぎていったが、それでも軍隊をみると気分が悪くなる。 軍隊の大部分がロングビルを追い抜いた後、しばらくしてシエスタの乗っていった馬を発見した。 尻に押された焼き印から、魔法学院の厩舎から持ち出されたものだと一目でわかる。 だが、馬の様子は戦争の行く末を暗示するかのように悲惨なものだった。 体の水分をほとんど失い、舌を垂らしてもがいたのが、白目をむいて苦悶の表情で息絶えていた。 蹄は砕け、足は折れ曲がっており、この馬は自身の意志に反して走らされていたのが想像できる。 「これじゃ、どっちが吸血鬼か分からないね」 そう言いながら、ロングビルは倒れた馬に杖を向けてルーンを詠唱し、馬の遺骸を街道の脇へと移動させた。 それからまた馬を走らせ、数時間。 途中で何度も「レビテーション」をかけ、馬の負担を減らしていたが、それでもラ・ロシェールまでの道を一日で駆けていくには無理があった。 換えの馬がある宿場で馬を替えようとしたが、ラ・ロシェールから避難する人間が多かったせいか、元気に走れそうな馬など一頭もいなかった。 それにしても奇妙だ、これだけ走っているのにシエスタに追いつけない。 もしかしたらシエスタを追い抜いてしまったのではないかと考えたが、この街道を通らなければラ・ロシェールにもタルブ村にも行くことはできないはず。 そう考えて、宿場を通りかかる人にシエスタの容姿を説明し、見かけてないか聞いてみることにした。 幾人かに話しかけたところで、背中に大きな包みを背負った男が、その少女に心当たりがあると言い出した。 「ああ、一時間ぐらい前に見かけたよ。すごい勢いでラ・ロシェールに向けて走っていったさ」 「どのあたりで見かけたの?」 「ちょうど中間地点だよ、その後すぐ軍隊とすれ違ったんだから、よく覚えてら」 「…わかったわ、ありがと」 ロングビルは内心の焦りを隠しつつ、礼を言った。 (冗談じゃないよ、ラ・ロシェールまで早馬で二日はかかるんだよ、それを半日で半分も走り抜くだって?) 疲れ気味の馬に乗るのは得策ではない、ロングビルは手綱を握り、馬を歩かせることにした。 ラ・ロシェールとその近辺はすでに戦場と化しているかもしれない。 だが、そんなことよりも恐ろしい考えがロングビルの頭に渦巻いていた。 波紋と吸血鬼、オールド・オスマンは相反する性質を持つと言っていたが、もしかしたら人間からみて異端なものには変わりないのではないだろうか…と。 ロングビルが、シエスタを見つけたのは翌日朝のことだった。 タルブ領の騎士に先導されたタルブ村の人々は、トリスタニアに続く街道に避難していたのだ。 馬を乗り捨ててからここまで、全速力で走ってきたにもかかわらず、シエスタはあの馬のようにやせ細った訳でもなければ足が折れているわけでもなかった。 シエスタの父の話によれば、シエスタは街道に取り残され途方に暮れているタルブ村の一団を見つけ、兄弟達の名を叫びながら近づいてきたらしい。 家族の無事を確認したシエスタは、疲れが限界にきていたのかそのまま眠ってしまった。 翌朝になってロングビルが追いついたのだが、ロングビルの乗ってきた馬が疲弊しきっているのに対し、シエスタは数時間の睡眠で体力を回復していた。 話を聞いているうちに、徐々に砲撃の音が激しくなっていった。 ラ・ロシェールに陣取っているトリステイン軍に向けて、巨大な戦艦から砲撃が加えられているらしい。 皆が恐れおののく中、ロングビルは学院長から寄越される予定の伝書フクロウをじっと待っていた。 戦争は嫌いだが、こちらには地の利がある。 それに魔法学院の秘書などという立場などいくらでも捨てられるのだから、ロングビルは戦場が近くても悠長にものを考えていたのだ。 そして、砲撃がやみ、遠目でも確認できる巨大な竜巻が巻き起こった頃、伝書フクロウがロングビルの元に届いた。 フクロウの持ってきた手紙には、オールド・オスマンからのメッセージが書かれており、ロングビルはそれをシエスタにも伝えた。 『トリステイン敗北の場合はフクロウに返事を持たせず、シエスタをつれて即時魔法学院に逃げ込むべし。勝利の場合はシエスタを傷病兵の治療に当たらせよ。』 トリステイン万歳を叫ぶ声が、風に乗ってロングビルの耳にも届く。 それを聞きながら、ロングビルはシエスタにもメッセージを伝える、するとシエスタは力強く、その役目を果たしますと答えた。 ロングビルは、その様子に心強さではなく、無理して強くなろうとしているような危うさを感た。 そして翌日から、遅れて到着したモンモランシーと共に、シエスタは傷病兵の治療に当たった。 奇跡的にタルブ村は被害を免れ、シエスタの曾祖父が乗ってきたという『竜の羽衣』も無事だった。 タルブ村に近い草原では、練金で作った支柱に布をかぶせた簡易テントが並べられており、今回の戦争で傷ついた者達はそこで治療を受けている。 「ミス・ロングビル、昼食ができましたよ」 「ああ…じゃなかった。 ええ、ありがとうございます。すぐに行きますわ」 疲れているせいか、ついつい地が出てしまいそうになる。 お淑やかな秘書に徹していられればボロを出すこともないが、あの学院長のセクハラに反撃するときはいつも地が出てしまう。 もしかしたら見透かされているのか?と疑問に思いながら、ロングビルはタルブ村の村長宅へと入っていった。 「疲れたー」 情けない声を出して机に突っ伏しているのは、『香水』のモンモランシー。 出されたヨシェナヴェを食べる気力もないようだ。 彼女はシエスタがタルブ村に向かったと聞いて、ひどく心配していたのだ。 タバサのシルフィードに乗せてもらおうかと思ったが、タバサは不在、行方を知ってそうなキュルケもいない。 何かよからぬことでも起こっているのではないかと、不安になったところで、オールド・オスマンから呼び出された。 そしてタルブ村に行きシエスタと共に傷病兵の治療に当たってくれないかとお願いされたのだ。 ロングビルから更に二日遅れて、モンモランシーがタルブ村に到着すると、初めて見る戦場の跡に血の気が引く思いをしたそうだ。 波紋と水系統の治癒を併用することで、劇的に回復効果が高まり、本来なら死ぬような傷を負った人も見事なまでに回復していく。 たった二人で200人ほどの兵士を治癒したという話が、傷病兵と兵士の間で広まっていく。 三日経った今ではもう、魔法学院には優秀な治癒のメイジがいるという噂が、兵士達の間で囁かれていた。 「大丈夫ですか?」 シエスタがモンモランシーを気遣うが、モンモランシーは返事の代わりに手をひらひらさせるばかりで、それが余計にシエスタの不安をあおる。 「あの、疲れているのでしたら食事はやめて、ベッドを準備しますけど」 「……そんな気にしなくていいわよ、寝ても覚めても治癒ばかり。こんなにたくさんの人を治癒したのは初めてだから、精神的に疲れてるのよ……」 そう言ってモンモランシーはため息をついた。 二人は、片方が元平民とは思えないほど仲がよい。 モンモランシーがシエスタを対等な立場の存在だと認めているからだろう。 平民と貴族、その境界線が、ここはとても希薄だった。 その雰囲気と、ヨシェナヴェを味わいながら、ロングビルはウエストウッド村で生活しているティファニア達を思い出していた。 (あの子達は、元気だろうか…) もう少し状勢が落ち着いたら、里帰りでもしようか? ついでにこのヨシェナヴェのレシピを持って帰れば喜んでくれるに違いない。 人里に出られない彼女のために、土産話とか、料理のレシピとかを伝えてあげるべきだろうかと考えていた。 食事を終えて一息ついているところに、村長が駆け込んできた。 アニエスという人がシエスタに用があるとかで、村長はシエスタを連れて外に行ってしまった。 窓から外を見ると、忙しそうに走り回っている村民の中に、軽装鎧にマントを羽織り、腰に剣を下げた女性が見えた。 その女性は平民の身ながら、タルブ村方面に侵入しようとする敵兵を何十人も打ち倒し、メイジに劣らぬ功績を挙げたと噂されている。 それが事実ならば、彼女はおそらく「メイジ殺し」というやつだろう。 鉄砲、罠、火薬……メイジよりも遙かにハングリーな平民の傭兵、その中でもメイジを殺すだけの技術と知恵を持った者はメイジ殺しと呼ばれる。 陽光に輝く金髪を短く切り、青い瞳で周囲を見渡しているその女性の姿は、シエスタではなく何か別の者を探しているようにも見えた。 しばらくしてシエスタが戻ってくると、治療の続きをしてくると言い残して村長の家を出て行ってしまった。 モンモランシーもため息をついていたが、自分で自分の頬をピシャリと叩くと、よしっ!とかけ声をかけてシエスタの後をついて行った。 本来なら魔法学院の生徒であるシエスタとモンモランシーが、傷病兵の治療に当たるということは無い。 だが、オールド・オスマンは『波紋』を治癒の力であると印象づけるために、あえてモンモランシーをここに寄越したのだそうだ。 シエスタにシュヴァリエの爵位を賜るよう申請するには、それなりの功績がなければ必要だと考えた上での行動だった。 その上でもう一つの目的がある、それは、ラ・ヴァリエール家とのパイプを太くするという目的。 オールド・オスマンが調べた話では、ルイズの姉エレオノールは魔法アカデミーで研究を続けているそうだ。 アカデミーで行われている研究は多岐にわたる、時々『アカデミーに送られたら解剖されてしまう』と冗談混じりに噂されるが、それも本当なのではないかと思わせるほどに研究が盛んなのだ。 エレオノールは妹のカトレアを治療するために、アカデミーで研究を続けているらしい。 傷病兵の治療で『波紋』の効果を確かめてから、カリーヌ・デジレの耳に「特殊な治癒能力」の話を届けるのだ。 シエスタの立場を強くしなければ、アカデミーの研究材料として捕らえられてしまう可能性があった。 そのため、オールド・オスマンはシエスタの立場を強くすべく、苦手な(本人談)根回しに奔走しているのだ。 そこまで考えて、ロングビルは椅子から立ち上がり、背伸びをした。 「一応見回りでもさせてもらおうかね」 そう言うと、懐にしまった杖の感触を確かめる。 シエスタを監視し続けるのにも少し疲れたので、気分転換をかねて外を歩くことにした。 ロングビルは上着を羽織ると、食器をひとまとめにして、村長の家を出ていった。 タルブの草原は戦場となり、美しかった草原はほとんどが焼け焦げていた。 だが野草の生命力は強い、何年かすれば元通りの草原が姿を見せてくれるだろうと、シエスタの父から聞いた。 ロングビルは戦場跡を整理する平民の兵士を見つめた。 うち捨てられた剣や鎧、弓矢などを拾い集め、荷車に乗せていく。 ただ、じっとその様子を眺めていた。 『おい』 死体からものをかっぱらうのは趣味ではない、土くれのフーケと呼ばれた盗賊は、貴族の鼻をあかす盗みしかしないのだと心に決めていた。 『おーい』 それに戦場で武器防具を拾っても、マジックアイテムの類などほとんど期待できないと知っている。 この戦いで、高級貴族のほとんどは前線に出ていないだろう。 宝石や貴金属を身につけて死ぬような輩は、この戦場にはいないだろうと考えつつ、ロングビルは辺りを見回した。 『おい、行き遅れ』 「あぁ!?何だってェ?」 ロングビルは、つい、学院長の秘書ではなく、チンピラのように目を細めて声のした方を睨んでしまった。 慌てて顔を笑顔に戻し、取り繕うようにホホホと笑って、ロングビルの後ろで荷車を引いている少年と目があった。 「ボウヤ、いい度胸だね、将来大物になるよ」 こめかみに血管を浮き出させたまま、ロングビルは少年に笑いかける。 「ち、ちがいます、こ、こいつが喋ったんです!」 そう言って少年が指さしたのは、荷車に積まれたくず鉄と剣だった。 「冗談じゃないよ、剣が喋る訳…」 『ひでーな、俺のこと忘れたのかよ』 カチャカチャと鍔を慣らして、剣が喋る。 まさかとは思ったが、そのまさからしい。 ロングビルは荷車に積まれた剣を手に取ると、懐からほんの少しの貨幣を取り出し、少年に渡した。 それを受け取ると、少年は怖いものから逃げるように、荷車を引いてどこかへと走っていってしまった。 『いやー、助かったぜ』 「…あんたさっき何て言った」 『綺麗なお姉さん』 ロングビルは喋る剣…デルフリンガーを地面に放り投げると、とりあえず踏みつけた。 『ちょ、ちょっと待てよ、だってあのまま無視されたらデルフどうすればいいか分かんない伝説困ったなあって』 「いい加減におし!」 オールド・オスマンを蹴ることで、しなやかな足は見た目からは想像できないほど鍛えられていた。 全体重を乗せた踏み蹴りがデルフリンガーの柄に命中し、デルフリンガーは兵士達が踏み固めた大地へとめり込んだ。 「で、アイツはどうしたんだい、ここにはシエスタもいるんだよ」 『それなんだけどよお、俺にもよく分からねえんだ。馬っころが俺を盾にして嬢ちゃんを守ったのは分かるんだが、その後がちょっとなあ』 「どういうこと?」 『嬢ちゃんは、ラ・ロシェールに落下する船を魔法で吹き飛ばしたのさ、その余波で自分まで大怪我しちまった』 「…魔法って、あの爆発かい。怪我の程度は?」 『よく分かんね、でも意識は当分の間失ってるかもしれねえぜ。それと頼みがあるんだけど、俺を王宮まで連れて行ってくれねーかな』 「王宮?冗談じゃないよ…」 ロングビルは辺りを見回した、剣と喋っていて不審がられないかと思ったのだ。 周囲には鉄くずを集めている平民がぽつりぽつりと見える程度で、ロングビルを気にしている人などは居なそうだった。 地面にめり込んだデルフリンガーを持ち上げ、タルブ村へと向けて歩き出す。 「直接届けるのはごめんだよ、他人に任せるけどそれでいいかい?」 『いやー、悪いね』 「あんたも一応命の恩人だしねえ」 ロングビルは、ルイズがどれほどの怪我をしているか分からないが、今はデルフリンガーの言うとおりにした方が良さそうだと判断した。 ルイズと一緒にいたのはこのデルフリンガーなのだ、緊急時にどんな行動をとればいいのか、心得ていることだろう。 ロングビルはてくてくと歩きながら、デルフリンガーを適当な布にくるんで、時期を見て王宮に届けてやろうと考えていた……が。 「そこの女、その剣をどこで拾った?」 ロングビルは、背後からかけられた声にギョっとして振り向いた。 するとそこには、殺気に身を包んだ女騎士、アニエスが、まるで威嚇するかのような目つきでロングビルを睨んでいた。 場面は戻り、ワルドとルイズ。 「うう…おおおおっ……」 ルイズの顔に、ぼたぼたと涙の粒が落ちた。 ワルドの視界はにじみ、ルイズの姿がぼやけて見えていた。 自分の頬に伸ばされたルイズの手を握りしめ、ワルドは泣いた。 「ルイズ、ルイズなのか。君はルイズなのか?」 興奮のためか、歯ががちがちと音を立てて震える。 つい先ほどまで死闘を繰り広げていた「石仮面」は、ルイズと瓜二つだったが、雰囲気はまさに戦士の風格を持っていた。 だが、地面に倒れたまま自分を見上げているこの少女は、石仮面の時とは違い体に埋め込まれた骨も消滅し、ルイズ本来の身長に戻っている。 それどころか、死を臭わせる雰囲気などみじんも感じさせない。 そのギャップがワルドの心を乱していた。 ルイズは死んだはずだが、今、この少女は自分を「ワルド様」と言った。 親同士が決めた許嫁であり、ある意味では公爵家との血筋と地位を欲した政略結婚だと十分に理解していた。 ルイズを異性として意識したことはない、それどころか恋愛対象だとも思っていなかった。 だが、いざルイズの死を聞かされた時には、ワルドの心によく分からない感情が渦巻いた。 子供の頃、ワルドは風のメイジとして優秀だった。 だが年月を重ね、思春期を迎える頃、自分が井の中の蛙だったことを思い知らされた。 ある日母がワルドに告げた、ラ・ヴァリエール家の三女と婚約しなさい、と。 そこで一つ問題が起こった、ワルドは優秀ではあるが、飛び抜けて優秀ではない。 このままではラ・ヴァリエール家から一方的に婚約を破棄されるおそれがあった。 そこでワルドの母は、ワルドを魔法衛士にすべく尽力した、ワルドもまた期待に応えようと必死になって魔法の訓練を積んだ。 その甲斐あってか、ワルドはめきめきと実力を上げ、同世代の貴族からも魔法の腕前では一目置かれるほどになっていた。 ある日のことだ、ワルドは魔法衛士隊の見習いとして、将来の魔法衛士を約束された。 その時の母のうれしそうな顔と、涙をよく覚えている。 だが、その母はなぜか、突然に、何の前触れもなく自殺した。 ワルドは悩んだ、何があったのか、母は殺されたのではないかと思い、何度も母の身辺を調べた。 だが、ワルドに向けて残された一枚の遺書が決定的な証拠となり、自殺として扱われてしまったのだ。 ワルドにはどうしてもそれが納得できなかった、遺書にはワルドに向けて謝るような内容が書かれていたが、謝られるような心当たりなど一切ないのだ。 だから、ワルドは自分が悪かったのではないかと、自分が何かミスをしたのではないかと、ひたすら自分を呪った。 魔法衛士隊の一員となったワルドは、その不満と悩みをごまかすかのように、ひたすら任務に励んだ。 達成困難な任務に挑戦し、いつしかワルドは魔法衛士隊随一の使い手と呼ばれるようになっていた。 どんな栄誉も、ワルドの渇いた心を癒してくれることはなかった。 母の言いつけ通り、誇り高く、そして強くなったワルドだが、王宮の中枢に近づくにつれてその腐敗ぶりが目に入るのだ。 ワルドの領地はトリステインの中でも大きくはない、むしろ小さい部類に入るだろう。 小さいからこそ、ワルドの母は、ワルドを虚飾や汚職に近づけることなく育てることができたのだ。 純粋培養で育てられた花が、王宮の毒に毒され、その心を病ませていくのは時間の問題だった。 そんな時、アルビオンで起こった反乱の噂を耳にした。 レコン・キスタという組織がアルビオン王家に反旗を翻したのだという、しかもその首謀者オリヴァー・クロムウェルは、自らを始祖ブリミルに選ばれた虚無の後継者だと自称している。 虚無の力は、死者をも生き返らせるらしい… ワルドの心が、レコン・キスタへと傾き始めた頃、レコン・キスタからワルドに接触があった。 そして、アンリエッタ姫から、アルビオンのウェールズ皇太子が持っているという手紙の奪還を依頼された時、ワルドはトリステインを裏切る決心をしたのだ。 裏切る決心をして、その情報をレコン・キスタに流したワルドは、王宮に出入りしているトリステイン魔法アカデミーの研究者から、魔法学院で起こった事件の話を聞いた。 アカデミー研究員のエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。 彼女の口から、ルイズが死んだことを聞かされたワルドは、心が砕けていくのを感じた。 「君は何なのだ、君は何なのだ?答えてくれ…」 砕けた足と、折れた肋骨が痛む。 その痛みをこらえつつ、ワルドはルイズの頬に手を伸ばした。 頬をなでられたルイズは嬉しそうにほほえむばかりで、何も答えてはくれなかった。 突然、ガササササと音がした。 「!」 ワルドが音のした方を向くと、そこには豚のような鼻を持った亜人、すなわちオーク鬼が群れをなして、ワルドとルイズの二人をみていた。 「くっ」 ワルドはまさに血の気が引く思いだった、左手の義手は砕け、両足の骨も折れ、肋骨は砕かれている。 杖は砕かれどこかに落ち、予備の杖も落下のショックでどこかに飛んでいってしまった。 杖のないメイジは平民と同じ、しかもほとんど動けないような怪我をしているのだ。 ワルドは咄嗟にルイズを抱きしめると、芋虫のように体を動かして、なんとか逃げようとした。 だが、反対側にもオーク鬼が待ちかまえており、逃げ道は無いのだといやでも理解できた。 肘から先が失われた左腕でルイズを抱きかかえ、右手で地面に落ちている石ころを握りしめる。 『なぜ、私はこんなことをしているのだろう?』 ふとそんな疑問が頭をよぎる。 一度ならず、二度も殺そうとした「石仮面」。 それを守ろうとしている、あまりにも滑稽だなと、ワルドは自嘲した。 「フゴォッ」 一匹のオーク鬼がワルドの後ろから近づくと、無造作にワルドの肩をつかんだ。 そのまま軽々と腕を振ると、ワルドの体はまるで紙切れのように宙を舞い、そばに立つ木へと衝突した。 「ぐ はっ!」 体を打ち付けられた衝撃で呼吸が乱れ、ゲホゲホと血が混じった咳が出てきた。 痛みで朦朧とする意識の中、ルイズの姿を探す。 オーク鬼はルイズの髪の毛をつかみ、ルイズを持ち上げて、舐めるようにその体を吟味しているようだった。 ゴフゴフと鼻息をたてつつ、人間にも理解できる下卑た笑みを浮かべ、オーク鬼はルイズの首に手をかけた。 「る…るい…ず…………ルイズーっ!」 ワルドの叫びもむなしく、オーク鬼の手に力がこもる。 そしてルイズの首はめきめきと音を立てて、引きちぎられた。 バキバキと骨の砕ける音と、心臓の鼓動にあわせて頸動脈から吹き出す血。 無造作に投げられ、地面に転がるルイズの首。 「ーーーーーーー!!!!」 ワルドの叫びは声にならなかった。 それをあざ笑うかのように、四匹のオーク鬼は、フゴフゴと鼻息をならしていた。 もう一匹のオーク鬼がルイズの腕に手をかけ、引きちぎろうとした時、異変が起こった。 オーク鬼たちはその異変に気づいていなかった。 ただ、離れたところから、まるで虫けらのように地面に放り投げられたワルドだけが、その一部始終を見ていたのだ。 首が、浮いている。 投げ捨てられたルイズの首が、髪の毛と血管を触手のように伸ばして、宙に浮いている。 ワルドはその光景に恐れを抱かなかった。 むしろ、神々しいとさえ思えた。 ルイズの首に背を向けていたオーク鬼が、ブギッ、と短く悲鳴を上げた。 背中にはルイズの首からのびた血管が突き立って、びくんびくんと震えながら血を吸っているようだった。 隣にいたもう一匹のオーク鬼がその異変に気づくと、手に持っていた棍棒をルイズの首に振り下ろそうとした。 だが、その腕はルイズの首にではなく、地面へと落ちた。 ルイズの髪の毛がオーク鬼の腕にからみつき、文字通り握りつぶしたのだ。 突然のことに反応できず、失った腕を不思議そうに見つめていたオーク鬼だったが、次の瞬間には顔面に突き立った幾本もの髪の毛に血を吸われ、瞬く間に干からびていった。 「ビギイイ!」 「ゴフ、フゴオッ!」 残った二匹のオークが、ルイズの体から手を離した。 その瞬間、首のないルイズの体がびくんと跳ね起きて、オーク鬼の心臓を右手で突き刺した。 ルイズの頭からのびた血管が、体の首へと突き刺さり、二つに分かれていた体が一つになっていく。 「ビキイイイイイイ!」 悲鳴を上げて逃げようとしたオーク鬼が、背中を向けた瞬間、ルイズの腕がオーク鬼の背中に突き刺さった。 動きの止まったオーク鬼の体から、勢いよく背骨を引き抜きつつ、もう片方の手で血を吸っていく。 いつの間にか、ルイズの首は完全に再生し、傷跡一つ残されていなかった。 あたりにまき散らされたオーク鬼の血、肉片、干からびた体。 ワルドはただ、呆然とそれを見ていた。 空を見上げていたルイズが、髪の毛をかき上げて背中に流すと、全裸のまま堂々とワルドに近づいた。 地面にはいつくばり、ルイズを見上げているワルド。 見下ろすもの、見上げるものが逆になっていたが、ワルドは不思議と恐れを感じなかった。 ルイズはワルドの体を仰向けにすると、脇腹に指を当てて、ずぶりと突き刺した。 「ぐ…」 体の中に何かが侵入する違和感に顔をしかめたが、ワルドはそれ以上何も言わず、ルイズにされるがままになっていた。 指が引き抜かれた時には、肋骨から感じられていた痛みが消えていた。 次にワルドの足に指を差し込む、右足は単純骨折だったが、左足は複雑骨折になっており、一部は皮膚を突き破っていた。 慎重に、やり直しのきかないパズルを組み立てるように、骨の位置を調節していく。 しばらくすると、痛みこそまだ残っているものの、無理をすれば立てるぐらいにワルドの足は回復していた。 内出血が酷いため、ワルドの上着を脱がせてそれを破り、足に添えた添え木と一緒に巻き付けた。 ワルドはずっと黙ってそれを受けていた。 一通りの処置が終わると、ルイズは吸血馬の遺骸…といっても風化して砂になった骨だが、その中からかろうじて原形をとどめている短い円筒形の骨を拾い集めた。 その骨を手首と足首に差し込むと、ルイズの体は骨の分だけ伸びる。 さきほどより身長が5サントほど高くなっただろうかと、ルイズの姿を見ながらワルドが考えた。 「ここは戦場に近すぎるわ」 そう言ってラ・ロシェール方面の空を見る。 グリフォンや竜がラ・ロシェールの高台から飛び立ち、周囲を旋回しつつ警戒しているのがわかる。 ルイズは自分より背の高いワルドを背負い、森の奥へと足を進めていった。 ルイズの背に揺られながら、ワルドがつぶやく。 「なぜだい?」 その一言には、ワルドを殺さなかったこと、石仮面と呼ばれている傭兵の存在、そして吸血鬼化した理由など、思いつく限りのすべての疑問が込められていた。 それが何となく感じられたから、ルイズは短く、一言だけ答えた。 「運命が残酷なのは、貴方だけじゃないわ」 背負われているワルドからは、ルイズの表情は見えない。 ルイズは歩きながら、ほんの少しだけ、涙を流していた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/283.html
in避難所(作品投下スレ) あの作品のキャラがルイズに召喚されましたin避難所 2スレ目 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part235 in避難所 2ch本スレ あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part328 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part327 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part326 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part325 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part324 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part323 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part322 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part321 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part320 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part319 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part318 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part317 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part316 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part315 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part314 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part313 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part312 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part311 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part310 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part309 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part308 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part307 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part306 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part305 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part304 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part303 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part302 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part301 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part300 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part299 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part298 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part297 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part296 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part295 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part294 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part293 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part292 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part291 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part290 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part289 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part288 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part287 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part286 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part286(実質285) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part285(実質284) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part283 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part283(実質282) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part282(実質281) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part281(実質280) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part279 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part278 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part277 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part276 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part275 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part274 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part273 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part272 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part271 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part270 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part269 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part268 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part267 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part266 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part265 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part264 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part262(実質263) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part262 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part261 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part260 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part259 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part258 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part257 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part256 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part255 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part254 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part253 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part252 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part251 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part250 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part249 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part248 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part247 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part246 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part244(実質245) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part244 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part243 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part242 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part241 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part240 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part239 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part238 *Part235(実質236)~237嵐スレのため欠番 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part235 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part233(実質234) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part233 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part232 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part231 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part230 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part229 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part228 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part227 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part226 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part225 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part224 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part223 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part222 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part221 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part220 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part219 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part218 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part216(実質217) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part215(実質216) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part215 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part214 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part213 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part212 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part211 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part210 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part209 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part208 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part207 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part206 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part205 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part204 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part201(実質203) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part202 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part201 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part200 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part199 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part198 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part197 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part195(実質196) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part195 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part194 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part193 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part192 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part190(実質191) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part190 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part189 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part188 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part187 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part186 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part185 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part184 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part183 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part182 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part181 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part180 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part179 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part178 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part177 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part175(実質176) あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part175 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part174 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part173 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part172 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part171 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part170 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part169 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part168 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part167 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part166 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part165 あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part164 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part163 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part162 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part161 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part160 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part159 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part158 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part157 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part156 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part155 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part154 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part153 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part152 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part151 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part150 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part149 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part148 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part147 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part146 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part145 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part144 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part143 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part142 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part141 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part140 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part139 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part138 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part137 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part136 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part135 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part134 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part133 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part131(実質132) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part131 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part130 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part129 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part128 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part127 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part126 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part125 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part124 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part123 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part122 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part120(実質121) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part120 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part119 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part118 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part117 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part116 あの作品のキャラがルイズに召喚されましたpart115 あの作品のキャラがルイズに召喚されましたpart114 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part113 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part112 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part111 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part110 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part109 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part108 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part107 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part106 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part105 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part104 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part103 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part102 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part101 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part100 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part99 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part98 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part97 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part96 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part95 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part94 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part93 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part92 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part91 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part90 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part89 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part88 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part87 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part86 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part85 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part84 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part83 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part82 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part81 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part80 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part79 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part78 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part77 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part76 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part75 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part74 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part73 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part72 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part71 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part69(実質70) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part68(実質69) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part67(実質68) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part67 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part66 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part65 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part64 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part63 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part62 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part61 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part60 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part59 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part58 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part57 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part56 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part55 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part54 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part53 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part52 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part51 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part50 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part49 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part48 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part47 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part46 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part45 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part44 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part43 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part42 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part41 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part40 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part39 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part38 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part37 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part36 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part35 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part34 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part33 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part31(実質32) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part30(実質31) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part30 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part29 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part28 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part27 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part26 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part25 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part24 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part23 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part21(実質22) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part21 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part20 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part19 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part18 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part17 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part16 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part15 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part14 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part13 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part12 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part11 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part10 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part9 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part7(実質8) あの作品のキャラがルイズに召喚されました part7 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part6 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part5 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part4 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part3 あの作品のキャラがルイズに召還されました part2 あの作品のキャラがルイズに召還されました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6567.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 空を飛ぶ竜の背で感じる風は一時も休まることなく頬を叩き髪をなびかせる。 目に入りそうになった髪の一筋をかき上げたキュルケは指の間から見えるひときわ大きな雲の中におぼろげに光る何かを見つけた。 髪に当てた手をそのままに目をこらしていると、それは横に広がる輪郭を雲の中に映していき、なんの支えも無く宙に浮くその姿を見せていく。 「見つけたわ。あれ」 それこそがアルビオン。霧のベールをまとうが故に白の国とも呼ばれる浮遊大陸である。 その大陸にそびえる山に積もった万年雪が日の光を照り返し、まるで自らの内から発していたかのように輝いていたのだ。 キュルケが見たものと同じ光を見たタバサが、自らの使い魔である風竜の耳元で囁くと、それは翼を大きく羽ばたかせ首をアルビオンに向けた。 アルビオンの周りを囲む雲が後ろに流れるたびに、それまで淡い影だった大陸は徐々にはっきりとした輪郭と色を得ていく。 「ギーシュ、出番よ」 「ふふん。ぼくのヴェルダンデにまかせたまえ」 シルフィードの背に乗りラ・ロシェールから飛び立ったものの、キュルケ達はルイズがアルビオンのどこに行ったかは全くわからない。 それを見つけるための決め手こそギーシュの使い魔ジャイアントモールのヴェルダンデなのだ。 「さあ、頼むよ。ヴェルダンデ」 ギーシュが使い魔に命令する、と言うより麗しい女性のように頼まれたヴェルダンデは鼻を少し上げて左右に振り始めた。 モグラは元々嗅覚に優れた動物である。ジャイアントモールの嗅覚はさらに優れており、地中深くにある宝石を探し出し、嗅ぎ分けることすらできる。 それならヴェルダンデの嗅覚を使って水のルビーを見つければ、それをつけたルイズも見つけることができる。 ギーシュはそうラ・ロシェールでヴェルダンデと再会した後に蕩々と語ったのだ。 「ふんふん、なるほど」 「どう?ルイズはどこにいるの?」 ギーシュはさらさらの髪をかき上げ、ふっと鼻で笑うと答えた。 「わからない、だってさ」 「タバサ、ちょっと宙返りして。余計なもの捨てるから」 それを聞いたタバサは全く躊躇することなく真顔で頷く。 「わ、わ、わー、ちょっと待ってくれたまえ」 ギーシュの必死の叫びに何か思うことがあるのか、タバサはシルフィードの傾きかけた体を水平に戻す。 ただ、後ろを向いてギーシュを見る目は一見いつもと変わらないものであったが、被告人の言葉を聞く冷酷な裁判官のようでもあった。 「いいかね。いくらヴェルダンデの鼻が優れていると言ってもアルビオン全部の宝石の臭いが分かるほどじゃないんだ」 「それで?」 キュルケの二つ名は微熱。 だが、その言葉は吹雪よりも冷たい響きを秘めていた。 ──つまらないことだったら落とす とでも言いたげに。 「アルビオン全部はムリだけど見える範囲くらいなら十分嗅ぎ分けられる。それでも目で探すよりはずっと早いし確実なはずさ」 ギーシュはさらに説明を続ける。 ここで落とされたらメイジといえどもたまったものではない。 フライやレビテーションの魔法を使うにも限界はあるのだ。 「だからアルビオン上空をくまなく飛んで欲しい。必ず見つかる。いや、見つけてみせる」 「それしかないわね」 もう一度アルビオンを見たキュルケは溜息を一つついた。 ヴェルダンデが現れた時にはアルビオンが見つかればすぐにわかるというように聞かされていたのに随分と話が違ってしまった。 だからといってキュルケはここでルイズ探しをやめる気はない。 それどころか絶対に見つける気でいた。 「あなたが起きていればもっと別の方法もあったかも知れないわね」 キュルケは胸に抱いていたフェレットのユーノの背を毛並みに沿って撫でる。 まだ死んではいない。 しかし血を流しすぎた白い獣からは温かさよりも冷たを感じる。 「思ったとおりにはいかないものね」 シルフィードが雲の中に滑り込んだ。 視界が一瞬だけ白く覆われ、すぐに晴れる。 雲を抜けるとその下にはもうアルビオンの大地が広がっていた。 ──思ったとおりにはいかない まさしくその通りだ。 キュルケとギーシュは竜に乗り慣れていない。 タバサもシルフィードの主人ではあるものの未だ竜の乗り手として熟練しているとは言いがたい。 特に移動するアルビオンまでの航路の知識は船乗りには及ばないし、フネとの速度差も実感してはいなかった。 故に彼女らが思ってもいないことが起こっていた。 窓の外を見るルイズの目に映るいくつもの雲は流れては消え、また消えては流れる。 だが、それは瞳に映るのみで心は全く違う二つのものを見ていた。 1つは彼女の婚約者、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 手を引かれてラ・ロシェールの港に走っていくのはまるでおとぎ話の1シーンのようでもあり、夢のようでもあった。 彼がいればこの任務を必ず果たせると確信できる。 それに彼は魔法も満足に使えない自分のことを覚えていてくれたし、結婚まで申し込んでくれた。 その時のことを思いだし、ルイズは頬を赤らめ、ほうと溜息をついた。 もう一つは彼女の使い魔、ユーノ・スクライア。 剣と魔法を操り、無数の傭兵の前に立つ彼の後ろ姿は自分よりもずっと年下なのにとても頼もしく見えた。 彼は今一番近くにいて欲しい人。 だけどその後ユーノは追いかけては来なかった。 その時のことを思いだしたルイズはレイジング・ハートを固く握りしめた。 (ユーノ、私はここよ。こっちよ) 声は届かなくても念話なら届くかも知れない。 届けば空を飛べるユーノなら必ず追いかけてくるはず。 (早く来て) ワルドの申し出にどう答えるか。 その答えはもう決まっていた。 だけど、どうしても言えずにいた。 ワルドの前に行こうとする足は止まり、答えを伝えようとすれば喉がつまる。 ──ユーノならきっと喜んでくれるわよね そうすればきっと答えられるような気がした。 ルイズは再び外を見る。 青い空が見えた。流れる白い雲が見えた。眼下には大地が見えた。 アルビオンはまだ見えなかった。 ユーノはどこにも見つからなかった。 これはシルフィードがアルビオンの大地に影を落としたのと同じ時刻のこと。 ルイズの乗るフネは未だアルビオンを離れた空にあった。 ヴェルダンデの鼻があるとはいえ、どこにいるかわからないルイズを見つけるにはアルビオン中を飛び回るしかない。 しかしシルフィードの背に乗り、空を飛ぶギーシュ達はルイズを見つける前に逆に見つけられていた。 「うわああ、来た、来た、来た!」 酷くうろたえてギーシュはちらちらと後ろを伺う。 「ちょっとは落ち着きなさい」 「そりゃそうだけど」 アルビオン大陸中央部に入ってからすぐの事だ。 たまたま後ろを見ていたギーシュは雲間に小さな影を見つけた。 何かと考えているうちにどんどん接近してくるそれを見続けていたギーシュは思わずそれはもう情けない顔──モンモランシーには見せなくない──をしてしまった。 それは風竜だったのだ。 ただの風竜ではない。背中に人を乗せている。つまりは竜騎士だ。 アルビオンはほとんどレコン・キスタの勢力下にあるという。 だったら、こんなところを飛んでいるのは間違いなくレコン・キスタ側の竜騎士だ。 杖を振りかざして「降りろ」と合図を送っているのが見えるほどに近づいたが、冗談ではない。 アルビオン王家に接触しようとしているトリステイン貴族が捕まってただですむはずがないではないか。 ルイズと一緒にいるワルドがレコン・キスタに着いていると予想されている今ならなおさらだ。 「もっとスピードは出ないのかい?このままじゃ追いつかれる」 「無理」 完結に答えたタバサの後ろでまたもギーシュは情けない声を上げる。 シルフィードも風竜ではあるがまだ子供。しかも、こちらは3人乗りで向こうは軽装の1人だけ。 どう見ても向こうの方が速い。 「ど、ど、ど、どうするんだよ」 追いつかれるのも時間の問題だ。 これ以上速度が上げられないシルフィードの下を村が通りすぎ、街道が通りすぎる。 草原を通り過ぎた後は森が広がっていた。 タバサは握りしめた杖の頭を上に向ける。 「私に考えがある」 タバサがあの時──学院で大砲を持ったゴーレムと戦った時──と同じように呟いた。 サウスゴータ地方に配属された竜騎士である彼はいつもの通り哨戒を続けていた。 すでに王国軍が一掃されたこの辺りの任務で退屈をしていた彼は、大あくびの途中で思いがけないものを見つけた。 こんなところを風竜が飛んでいたのだ。 しかもその背に乗っているのはレコン・キスタに参加しているとは思えないどこかの学生らしき人だ。 つまりは不審竜と不審者である。 ぴしゃりと頬を叩いて眠気を晴らした彼は手綱を操り、風竜の速度を上げ不審な風竜を追った。 近づいて合図を送るが速度をゆるめる気配はない。 それどころか速度を上げて逃げようとまでしたのだ。 当然彼も任務を果たすべく速度を上げて追う。 逃げられるはずがない。風竜の大きさもさることながら乗っている人数の差から考えても無駄なことだ。 そうしてサウスゴータ近くの森林上空まで来た時だ。 逃げる風竜の周囲にいくつかの光点が突如発生したのだ。 「なんだ?」 彼もメイジだ。 その光点が何かはすぐに知れた。 魔法で作られた火球がカーブを描きながら飛んでくる。 自動的に目標を追いかける火の魔法、フレイムボールだ。 「くっ」 この風竜は残念ながら使い魔ではないが彼も竜騎士になったばかりの新米ではない。 音に聞こえた無双ともうたわれるアルビオンの竜騎士なのだ。 普段の訓練通りにマジックアローを飛ばし、一つずつ火球にぶつけ相殺していく。 「やるな」 その火球の起こす爆発に彼はいささか舌を巻いた。 火球の速度、大きさから考えても腕の悪いメイジではない。 おそらくトライアングル以上のメイジだ。 爆風が晴れると逃げる風竜が急激に上昇を始めていた。 「これを狙っていたか」 上空には折り重なった分厚く、濃い雲があった。 「しっかり捕まって」 タバサはそうぽつりといつものように言うと、キュルケの返事も聞かずにシルフィードの首を真上と見まごうくらい高く上げた。 「ひっ」 後ろからのギーシュの悲鳴を聞きながらキュルケはシルフィードの背びれに両手でしっかりとしがみついた。 途端、目の前に厚すぎて灰色になった雲が迫る。 その分厚さにキュルケは目の中に雲が入ってくるような錯覚を覚えて思わず目をきつく閉じた。 それは手ばかりでなく足でもしがみついているギーシュや不思議な掴まり方をしているジャイアントモールのヴェルダンデも同じだった。 逃げ続ける風竜が雲の中に隠れても彼はまだ余裕があった。 相手の風竜を操る乗り手の腕は悪くない。いや、彼の所属する竜騎士団の中でも中の上には位置するだろう。 まるで風竜に言い聞かせるように自在に操っている様子から考えると、あの風竜は使い魔なのかも知れない。 だが、いかんせんあの風竜には荷物が多すぎたし、乗り手は空戦の経験に不足しているようだ。 分厚い雲に隠れるという発想はいいが、入り方がいかにもまずい。あれでは飛ぶ方向がはっきりわかってしまうではないか。 先ほどの魔法の応酬で距離は開いてしまったが追跡に問題はない。 彼もまた手綱を引いて竜の首を上げ、雲に飛び込んだ。 ──このままやつの頭を押さえる 視界が雲に覆われても焦りはなかった。むしろ余裕すらあった。 このような時には経験がものを言う。 その差を確信したが故に彼は目前にぼんやりとした竜の影を見つけた時、笑みさえその顔に浮かべた。 首の後ろをひんやりとしたものが掴んだ それが何かを確認する暇さえなく、突如無数の針に首を刺されたような痛みを感じた瞬間、彼の心と体は力を失い自らの竜の背に身を横たえた。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1397.html
ルイズはニューカッスル城の裏庭で、石つぶてを投げる訓練をしていた。 指の力で投げるだけで、銃と同じか、それ以上の破壊力になる石つぶて。 しかし命中精度が悪く、ルイズは精度を上げるために日々考案と訓練を繰り返していた。 訓練を終えると、見張りの交代時間が迫っていたので、ルイズは裏口から城内に入っていった。 「そちらの芋を剥いたら、こっちのボウルに入れておいて下さい」 「あいよ!」 「ブルリンさん、貯め置きしていた水が足りなくなってしまって…」 「すぐ持ってくるぜ!」 「ブルリンさーん、倉庫から塩漬けの肉を持ってきてくださーい」 「わかった!」 「ブルリンさーん!」 「…何よアイツ、けっこう人気者じゃない」 たまたま裏口から厨房をのぞき見たルイズは、やけにメイド達に頼られているブルリンの姿を見て、呆れていた。 厨房でやたら人気の男、ブルリン。 とても傭兵として雇われたとは思えない程、嬉々として厨房を手伝っては、洗濯を手伝い、はたまた平民の衛兵を相手に力自慢などもしている。 ルイズはそんなブルリンの姿を見て、少し羨ましいと思った。 「君が傭兵の『石仮面』殿かな?」 ルイズが見張り台に立っていると、突然後ろから声をかけられた。 振り向くと、そこには凛々しい金髪の男性、まだ年は若そうだがルイズよりは上、ロングビルと同じぐらいだろうか? 「で、殿下!このような所に来られては危険です!」 「なあに、彼らがその気なら、私はとっくに砲撃で殺されているよ」 「ですが…」 「石仮面殿、私は貴方に話があるのだが…私の身を案じてくれている部下のために、下までご足労願えるかな」 ルイズは殿下と呼ばれた男に礼を示すため、フードを取った。 「分かったわ。…殿下、とお呼びすればよろしくて?」 「失礼、私の名はウエールズ・テューダーだ、ウェールズと呼んで貰っても構わない」 ルイズはウェールズに連れられて、ウェールズの私室に入った。 ウェールズの私室は、とても王族の部屋とは思えない程簡素なものに見えた。 ルイズが部屋に通されてすぐ後、ブルリンも衛士に連れられてウェールズの私室に入れられる。 衛兵が扉を閉めたのを確認すると、ウェールズは父譲りの威厳と、若さのある声で話し始めた。 「もう聞いているかもしれないが、反乱軍からの通告があった、明日、このニューカッスルに総攻撃を仕掛けるそうだ」 「あ、明日、ですかい?」 「そうだ、その驚きようだと聞いていなかったようだな…君は、ブルリン君だったかな?」 「へい」 ブルリンが返事をすると、ウェールズはにっこりと微笑んだ。 その微笑みはどこかか、深い思惟の末に何かを決断した、そんな愁いを帯びた微笑みだった。 ウェールズは机の脇から、二つの箱を取り出した。 見事な装飾が施された箱は、リンゴが10個ぐらいは入るであろう大きさをしている。 かちゃりと鍵の音がして箱が開く、すると、その中には見事な金銀の食器が入っていた 「申し訳ないが、金貨の代わりとして受け取って貰えないか、新金貨で600枚にはなるだろう」 「報酬?私たちはまだ仕事を済ませていないわ」 ルイズの言葉にウェールズが苦笑する。 「成功報酬は払えない、この城で戦力となる人間がどれだけいるか、君も見ただろう。我々は約300、反乱軍はおよそ5万、これでは勝ち目はない」 この言葉で、ウェールズの微笑みの意味を理解した。 成功報酬が払えないという事は、敗北が確定しているという事。 ウェールズも、この城の者達も、きっと敗北を知って戦うか、それか逃げるのだろう。 「あ、姉御、どうしよう」 「……私は『反乱軍を相手に戦う』ために雇われた、それは相手が5万だとしても変わらないわ」 ブルリンはしばらく悩む仕草をしたが、すぐに顔を上げてウェールズに向き直った。 「姉御が戦うなら、俺も!」 「あんたは帰りなさい、酒場のマスターの子供が疎開してるんでしょう」 「でもよぉ!ここまできて、今更後には引けないだろ!」 「身の程ってのを知らないの?適当に保身ぐらい考えなさいよ」 「じゃあ何で姉御は戦おうとするのさ」 二人のやりとりを聞いていたウェールズが、ふふ、と笑う。 「君たちは義理堅いのだね、では、明日の午前中、非戦闘員を乗せた船が城から脱出するので、その護衛の前払いとして受け取って貰えないか?」 ブルリンがウェールズの言葉に疑問を抱く。 「でも、あの『レキシントン』って戦艦が狙ってくるんじゃ」 「隠し港でもあるの?」 ルイズが核心をついたのか、ウェールズの目つきが一瞬鋭くなる、だがその目つきもすぐに優しい目に戻った。 「ご明察だ、この城の地下には隠し港がある、そこから脱出用の船を出すのさ」 「隠し港ね…まあ、お城だからそれぐらい備えは予想していたけど、少し驚きね」 「このアルビオンには、1メイル先の視界も効かない場所がある。反乱軍は座礁が怖くて、そんな場所には近づけないのだよ、形は取り繕っていても彼らは空を知らぬのさ」 自軍の技術を褒めるウエールズの瞳は、まるで少年のそれだった。 こんな絶望的な状況であっても『誇り』とか『気高さ』を失わない。 その瞳がルイズには痛々しく感じられた。 「…まあ、いいわ。ブルリン、あんたは船に乗って殿下を護衛しなさい、私はここに残る」 「姉御!?」 驚き、引き留めようとするブルリンを、ウェールズが遮った。 「誤解しないで欲しい、私はここで栄光ある敗北を選ぶ、君たちはあくまでも非戦闘員の護衛をして欲しい」 「なんですって、ウェールズ殿下、あなた、死ぬつもり?五万の兵に立ち向かうつもり?」 ウェールズは、無言だったが…力強く頷いた。 コンコン、とノックの音が響く。 「入りたまえ」 「失礼致します。決戦前の宴の準備が整いました、皆殿下をお待ち致しております」 「聞いたとおりだ、二人とも、戦うにしても逃げるにしても腹ごしらえぐらいしなければならないだろう。今日は思う存分食べてくれ」 「…あ、あの、じゃあ今日、厨房がやたら忙しかったのは…」 「はっはっは、厨房のメイド達が楽しげに話していたよ、ブルリン君も調理を手伝ってくれたそうだね。今日は私も心して食べさせて貰うとしよう」 そして、ウエールズが部屋を出て大広間に移動する。 ルイズとブルリンもその後をついて行った。 この城の大広間にはすでに豪華な料理が並んでおり、衛兵達もメイド達も分け隔て無く集まっていた。 その中央を国王であるジェームズ一世が歩き、ウェールズがそれに続いた。 玉座に座ったジェームズ一世は、その年老いた姿とは裏腹に、胆力と威厳のこもった声で宴の始まりを宣言した。 ルイズは、なぜか居たたまれなくなって、その場を離れた。 「男って、馬鹿みたい、死にたがるなんて…」 ニューカッスル城のバルコニー。 普段は見張りの兵士が立ち物々しい雰囲気だが、今はルイズしかいない。 月を見上げると、光が優しく自分を包み込んでくれる気がする。 今が戦時下でなければ、このバルコニーはどれだけ素晴らしい雰囲気だろうか。 そこに一人の男の足音が近づいてきた、足音には覚えがある、ウェールズだ。 「やあ、楽しんでくれているかね」 「…まあね」 「ブルリン君は人気者だな、先ほどワインをたらふく飲まされて、転んでいたよ」 「あの馬鹿、明日が決戦だって事わかってんのかしら」 「君こそ」 「え?」 「何故、そんなに平然としていられるのかね」 「…………」 「私は今日、思い人からの手紙が届いてね、いや、明日死ぬと決まった男に、恋文がね」 「恋文?」 「ああ、いとこの少女さ、まだ本当に幼い。そう……本当に幼いんだ」 「殿下のいとこ……まさか、アン…」 アンリエッタ、と言おうとしたルイズだが、ウェールズがこちらに寂しげな微笑みを向けているのに気づき、言葉がとぎれた。 「……私は王族としての責務を果たすため、反乱軍と戦い、死ぬつもりだ」 「亡命も、王族としての責務でしょう」 「ふう…君も、同じ事を言うのだね」 ルイズは黙っていた。 まさか『アンリエッタとは幼なじみです』などと言えるはずがない。 ウェールズのいとこで、恋文を出せると言えばアンリエッタしか居ないはず、ルイズはそう確信していた。 「いとこの少女は、ゲルマニアのある人物と婚姻を結ぶことになったらしい」 「…え?」 つまり…アンリエッタが、ゲルマニアの誰かと、結婚する…? 「あの娘のためにも…私は生きていてはいけないのだ、結婚前の少女が私に恋文を送ったなどと知られたら、一大事だからね」 ウェールズは、そう言って笑った。 なんて笑顔をするのだろう。 ルイズも馬鹿ではない、吸血鬼になった余裕なのか、以前よりも冷静に物事を考えるようになった。 おそらく、ウェールズが受け取った手紙の差出人はアンリエッタ。 トリステインへ亡命を薦めるような内容のものなのだろう。 しかし、政略結婚でゲルマニアに嫁ぐことになるアンリエッタは、ウェールズへの思いを断ち切る事など出来ない。 そのためにも、ウェールズは死ぬ気なのだ。 トリステインを、いや、アンリエッタの身を案じるが故に、この人は死ぬ気なのだ。 「………そういえば、こんな戦時下でも手紙は届くのね、不思議だわ」 「ああ、トリステインからのお客人のおかげでね」 「トリステインから?」 「トリステインの誇る魔法衛士隊の、ワルド子爵が使者として、はるばるニューカッスルを訪ねてくれた…おっと、あまり喋りすぎてもいけないね」 ウェールズはそう言って笑うと、ふぅ、と小さなため息をつき、その後で大きく深呼吸をした。 「不思議だ、君を見ていると、何でも話してしまいそうになるよ」 「たかが傭兵にそんな話をしては、器が問われますわ」 「それは違うな、これからの君の行動が、私の器を決めてくれるのさ、生き残った人でなければ、死人の器は評価できない」 「どうあっても死ぬつもりなのね」 「ああ」 しばらく夕涼みの後、ウェールズは大広間へと向かい、宴の喧噪に戻っていった。 「アンリエッタ…」 ぽつり、と呟き、ルイズは空を見上げる。 月はいつものように寄り添い、限りなく近づいている。 一つに重なった月はまるで男女のよう。 「気まぐれね」 その原理までは知らないが、月は重なっては離れ、離れては重なる。 しかしウェールズとアンリエッタが離れれば、もう二度と重なることはないだろう。 ふと、視線を感じて振り向く。 城の中から、バルコニーに立つルイズを見ている男が居た。 トリステインの魔法衛士の制服に身を包み、精悍なひげを蓄えた男性が、ルイズをじっと見つめていた。 「わ…」 ワルド様!そう言いたいのを必死で我慢した。 涙が出そうになる。 声が漏れそうになる。 憧れの人が今の私を見てどう思うだろうか。 吸血鬼、ばけもの、そう言って私を殺すだろうか。 「泣いているのかね」 すぐ後ろから声がする。 「君が親衛隊の言っていた『石仮面』か」 「…親衛隊に噂されるようなことはしていませんわ」 ルイズは、とっさに喉の骨に力を加え、声のトーンを変える。 「いや、数十人の傭兵をあっという間に倒してしまったと聞いているよ、相当な手練れだと聞いていたが」 「手練れ、ね、それぐらいの傭兵に対処できない親衛隊が弱いのよ」 「ふふ、彼らの弁護をするわけではないが、まだ親衛隊見習いのまま戦場にかり出されたのだ、優れたメイジでも油断をして傭兵にやられることもあるだろう」 「メイジなのに、平民の傭兵を怖がるの?」 「恐がりはしないさ、だがね、油断は大敵だ…五万の大群を前にすると知っていて、宴の喧噪にも混ざらず、一つも怖がる素振りもしない、君とかね」 「…私を疑っているのかしら、それとも口説いているの?」 キュルケをイメージして、不敵な笑みを見せたつもりのルイズ。 しかし内心は穏やかではなく、ワルドの一挙一動が気になって仕方がない。。 「忠告さ、命を粗末にしない方が良い、私の婚約者も強大な敵に立ち向かい、死んでいった…」 「婚約者…」 ルイズは考える。 ワルドの婚約者といえば、つまり、それは私だと。 トリステインで自分は死んだことになっていれば、ルイズの目論見は成功していることになる。 ロングビルからの情報だけでなく、ワルドの口からもルイズの死を確認できた。 だが、喜んで良いのか、悲しんで良いのか、ルイズには分からない。 「母と、婚約者を亡くした私だから忠告しよう、ここで死ぬことはない」 そう言ってワルドは踵を返し、城内へと戻ろうとした。 「一つ聞いていいかしら、なぜそんな話を?」 「…君が婚約者に似ていたからさ」 ワルドが城内に入り、廊下を曲がって、ルイズの視界から消えたとき。 ルイズは泣きたくなって目頭を押さえたが。 なぜか、涙は出てくれなかった。 To Be Continued → 18< 目次